チョウによると、鉄や銅などの素材は相場で価格が決まっており、そこから調達価格が大きく逸脱することはない。しかし、部品については、サプライヤーによって品質と価格にばらつきがある。必ずしも品質が良いから価格が高いということでもなく、サプライヤーとの関係構築が鍵になるようだ。

「どうやって、品質を改善しながら調達価格を下げればいいのでしょう」と健太は聞いた。

「やはり、競争入札を実施するのがいいな。複数のサプライヤーから相見積もりを取ることで競争原理が働き、場合によっては従来のサプライヤーでも価格交渉に応じてくれることがあるよ」

 すると、麻理が尋ねた。

「ティアダウンを当社で実施したことはありますか?」

「ティアダウン?」健太は聞き慣れない言葉に思わず聞き直した。

「ええ。ティアダウンというのは、完成品を部品単位にばらして、それぞれにサプライヤーから相見積もりをもらうやり方よ。私が以前見たのは、ティアダウンルームを設けて、部品をすべて並べてそこに掲示し、部品ごとの希望価格も記載していたわ。その部屋にサプライヤーを招き、部品のスペック・価格を見た上で入札してもらうの。

 既存のサプライヤーは希望価格とのギャップを埋めようと歩み寄る一方で、新規のサプライヤーは希望価格に近い価格を提示して新たなビジネスを獲得しようとする。結果として、競争原理が働いて、調達価格がかなり下がった部品もあったわ」

「それはいいね。競争入札をより効率的に大規模に行うということだね。チョウさんはどう思いますか」健太は麻理のアイディアに感心してチョウに向き直った。

「ティアダウンは、私が調達責任者のときに1回やったことがあるが、それ以降はどうなっているか知らないな。でも、一般的に、競合からのプレッシャーがあると、既存のサプライヤーも頑張るからね。あとは、価格交渉と同時に、購入量をある程度保証してあげることも効果的だな」

「そのティアダウンをやったら、当社の調達コストはかなり下がるかもしれませんね。一緒にウェイさんのところに説得に行ってもらえませんか?」健太はチョウに頭を下げた。

 チョウは少し困った顔をしながらも、健太の熱意にほだされて同行を承知した。