「製造原価の構成要素は、材料費・人件費・経費しかないから、そのいずれかを減らすしかないわ。でも、人件費を削るのは難しいでしょうね。ただでさえ作業員の補充が必要になっているし、給与水準も年10パーセント以上上昇しているから、水準を下げると作業員が辞めてしまう。また、経費が製造原価に占める割合は5パーセント以下だから、大きな削減効果は見込めないでしょうね」
「そうだね。じゃあ、材料費を詳しく見てみよう」
「材料費の項目を大きい順に見ていくと、モーター、クランクケース、シェル(全体のカバー)といったところかしら。これで材料費全体の7割を占めている」
「調達担当のウェイさんに、これらの購入価格を引き下げられないか尋ねてみよう。ただ、サプライヤーの品質改善の件でウェイさんと話したけど、あまり協力的ではなかったな」
「一筋縄ではいきそうにないわね。事前のリサーチをもっとするべきかしら」
「どうやって? これ以上詳しいことは、どこを調べてもわからないと思うよ」
「チョウさんに聞いてみましょう。彼はこの業界が長いはずよね。他社の情報も少しは持っているかもしれない」
2人は一緒に副工場長のチョウのオフィスに向かった。
「チョウさん、教えてほしいことがあるのですが」
「健太に麻理か、こっちのテーブルにいらっしゃい」
チョウは独特のアクセントが効いた英語で答えながら、いつもの笑顔で快くオフィスに迎え入れてくれた。
「実は、麻理さんが当社の収益率について、競合他社と比較分析をしてくれました。その結果、売上高に占める原材料費の割合が、競合に比べて約10ポイント高いことがわかったのです。コストが競合に比べて高いということは、逆に、当社にはそれだけ改善余地があるのだと思っています」
健太はここまで話して、麻理に引き継いだ。
「製造原価のうち、どうにか削減できそうなのは資材購入費と経費です。もっとも経費は売上高の5パーセント以下なので、削減効果は限られます。もちろん経費削減は必要ですが、一律10パーセントを削減したとしても、改善効果は0.5ポイントに過ぎません」
「生産品質の改善効果はどのくらい見込めるかね」
「数ヵ月後には5パーセントは原価低減できると思います」
「とすると、まだ5パーセント弱は足りないわけか。原材料の調達コストを下げないといけないね」
「僕らもそう思っています。ただ、どれくらいの調達価格が適正かがわからないので、チョウさんの意見をお伺いしたかったのです」
「今では調達はウェイさんに任せているけど、彼が入社するまでは私が調達部門を担当していたんだ。大体の水準はわかるよ」
「良かった!よろしくお願いします」2人は顔を見合わせて頷いた。