「やはりね。最初からうまくいくとは思わなかった」

 3月25日、高島屋と、阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オー リテイリング(以下H2O)が、経営統合の中止を表明した。しかし、流通業界関係者のあいだに驚きの声はない。目立つのは、「破談は想定どおり」という意見ばかりだ。

 両社が3年後をメドに経営統合を発表したのは、2008年10月のこと。当時は、確かに百貨店業界に、経営統合の雰囲気が醸成されていた。07年秋に、大丸と松坂屋が統合してJ.フロント リテイリングが発足、その半年後には、三越伊勢丹ホールディングスが誕生した。業界トップから3位にずり落ちた高島屋が統合の波に乗り遅れ、焦燥感があった感は否めない。その高島屋が統合相手に選んだのがH2Oだった。

 しかし、当初から両社の主導権争いを懸念する声が多かった。これまでの百貨店統合は、大丸による松坂屋の、伊勢丹による三越の買収に近い。どちらがリーダーシップを取るか明白だったが、高島屋とH2Oは、共に勝ち組とされてきた会社同士だからだ。

 高島屋は売上高1000億円超の大型店3店を中心に、全国に20店を抱え、「店舗立地、商品取引量共に、今でも百貨店トップという位置づけ」(アパレル)だ。

 一方のH2Oは、規模こそ高島屋の半分だが、関西でのブランド力は圧倒的。大阪・梅田を中心に一極集中での営業を展開してきた。

 店舗運営や商品政策などで、「話し合えば話し合うほど、考え方に差異が出てきた」(鈴木弘治・高島屋社長)という。人事や統合比率に関しても「一致点がなかった」。

 この1年半のあいだ、統合に向けて前進した形跡は少なく、綻びの兆候は出ていた。

 月に1回、両社の経営陣が出席し、東京と大阪で交互に開かれていた業務提携委員会。「高島屋のほうからあまり意見が出てこない」と、H2O幹部がこぼしていたことがある。

 商品面での協業は、歳暮の共通化にとどまる程度。3月2日には、高島屋大阪店が増床オープンしたが、阪急阪神百貨店の協力で導入した店舗は、食品の3店舗のみ。主力のファッションフロアは、高島屋独自の売り場編成だった。

 そもそも、商品の大量一括仕入れで、規模のメリットを生かしやすいスーパーなどのチェーンストアに比べて、百貨店は統合効果を得にくい。
両社共に切迫感がなく、煩わしい統合作業にエネルギーを費やすより、独自に競争力向上を目指したほうが効率的だろう。ただし、規模の面では他グループに差をつけられたままになる。これが、中長期的にどう作用するか。

 統合という選択肢を捨てたのであれば、単独でどのように成長戦略を描くのか、両社共に示す必要がある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)

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