はるかの“ピン試験”
「分かった、分かった、そう怖い顔するなって。確認しただけだよ。あくまでも確認。許してくれよ」
昌一郎は2人の勢いに押されて、あたふたしてしまった。
「2人の気持ちはよぉくわかったから! じゃあ、今から次のミッションを与えるよ」
「もちろん、昌ちゃん! 待ってました~って感じ。そう来なくっちゃね~!」
「ようやくかぁ。でも2人が抜けて、『鮪馳』大丈夫かな……」
「ま、ま、ま、少し落ち着いてしっかり話を聞きなさい。ったく……」
昌一郎は2人の興奮をなだめるように諭した。さすがの昌一郎も2人の娘たちにはタジタジだ。その様子をちらりと見た満園は笑みを隠しながら厨房に消えて行った。満園のニヤリとした表情をみた昌一郎は、思わず照れ隠しに咳払いをした。
「でな、今回のミッションはちょっといつもとやり方を変えようと思ってるんだ」
「へぇ~そうなんだ。どんな感じでやるの?」
あすみは興味津々といった表情で、昌一郎の顔を覗き込んだ。
「うん。今回はな、はるか1人でやってもらう」
「え? まさかの私ピン?」
「そうなんだ。というのもな……」
昌一郎は今回のミッションの意図について話し始めた。
・あすみはこれまでのミッションでK’sへの就職はほぼ内定している。
・あすみの次のミッションはどの部署に配属するか最終的な見極めのために実施する。
・はるかも8割方は内定で動いているが、まだ1人で取り組んだ実績がない。
・万が一はるかの内定が見送りになったら、就職活動をする期間が必要になる。
・『鮪馳』にとっても、2人が同時に抜けてしまうのは今のところ安心できない。
「なるほど。で、今回ははるかということなんだ」
「はるか、どうかな? やれるか?」
「う~ん、たしかにピンは初めてだよね……内容はどんなの? ま、どんな内容でもやるし、やれると思うけどねっ!」
「お、さすがはるか! ホント頼もしくなったな。昌ちゃんウルウルしちゃうよ」
昌一郎は嬉しそうな表情で、目に涙を浮かべながらはるかを見つめた。
「ちょっとパパ。しゃんとしなさいよ。しゃんと!」
あすみはそう言うと、おしぼりを昌一郎に手渡した。
「うんうん、パパもう嬉しくて……」
「まぁまぁ昌ちゃん。泣くのはこのミッションが成功したあとだよ~」
「そうだな。でな、今回のミッションは……」
昌一郎は珍しく熱を持って話し始めた。