株主の“監視”の下、企業価値を高めることを厳しく求められるグローバル企業で長くトップを務めた北城恪太郎・日本IBM相談役。企業を成長させる経営者に必要な資質は「判断できること」だと語る。自らも、日本IBMの主軸事業を大転換させるという大きな経営判断を下した経験を持つが、それはどのような見通し・考えに基づいて決断したのか。(聞き手/『週刊ダイヤモンド』論説委員・原 英次郎)
――北城さんは1993年から10年間、日本とアジア地域でIBMの経営トップを務め、その後も経済同友会代表幹事に就任するなどして経営の現場をずっとご覧になっていますが、優れた経営者とはどんな経営者だという考えですか?
北城 優れた経営者が立派な経営をするのではなく、優れた業績を上げた経営者が優れた経営者なのだと思います。
経営というのは簡単ではないし、業界もいろいろあって皆、違います。必ずしもリーダーシップの強いカリスマ型経営をやればうまくいくわけではない。会社が混乱しているときはカリスマ型経営が有効ですが、会社が順調なときにカリスマ型をやってしまうとみんながカリスマに依存してしまい、トップからの指示待ち人間になってしまいます。指示待ち人間が多い組織は一方向に向かうべきときは良くても、多様なものが伸びるときに強くなれない。
そういう風に経営は単純じゃないし、基本的な基軸は必要だけれど、環境に応じて柔軟性も必要。だから、いろいろなことを上手く組み合わせて、結果的に業績を上げた経営者が優れた経営者だと言えると思います。
――北城さんご自身も1990年代にそれまでコンピューターのハードウエアで業績を伸ばしていたIBMが業績不振に陥った際、ソフトウエアやサービスの分野に主軸事業を転換するなど変化に対応する経営をされていましたが、自社の事業構造を大きく変えるというときはどんな心境でしたか?
北城 90年代の初めくらいからIBMの基礎研究グループがコンピューターのハードウエア市場の縮小を予測していて、それまでの主軸事業が伸びない、このままでは会社が成長できないという意見が出てきていて、経営会議でも議論していました。