ワクチン行政も政権交代の余波を受けた。12月8日、閣議決定にこぎ着けた2009年度の第二次補正予算向け緊急経済対策。自公政権下の補正予算が10月に執行停止され、ここまでずれ込んだ。
当初14.7兆円規模の予算を7.2兆円まで縮小したため、割を食った事案は多い。国産ワクチンの開発・生産体制の強化用予算も消えかけた。前政権の予算に計上された1279億円が、一部を除きいったん白紙となったのだ。
あわてたのが、厚生労働省と国内でワクチン製造を担う4社のうちの1つ、大阪大学微生物病研究会(阪大微研)である。阪大微研は今年6月、5ヵ年計画で香川県観音寺市に16万平方メートルの新製造設備を設置すると発表したばかり。これまで500万人分だった製造規模を、新たな細胞培養法の採用によって効率化し6000万人分まで引き上げる計画である。
しかしその投資額は350億円と、阪大微研の売上高208億円の規模に対し明らかに大きい。補正予算からの助成を当てにしていたとの見方がもっぱらだった。
阪大微研側は「支援が受けられればありがたいが、もともと自前で投資する計画だ。蓄えもある」と説明する。今期すでに土地は購入ずみで、投資を続けるという。
厚労省は、前予算で一部残った臨時特例交付金240億円で基金を設置し、来年度早々にも支援希望企業を募るという。二次補正での予算復活にも奔走し成功した模様で、おそらく阪大微研も応募すれば受けられるだろう。
しかし無事に開発・生産体制だけ整えられたとしても、肝心なワクチン接種の有用性に対する評価や、制度設計は後手に回っている。法定接種化や重篤な副作用が出た場合の補償制度などについて、議論も尽くされていない。
日本がワクチン政策に消極的になったきっかけに、副作用の発生と多額の補償問題がある。国防として感染症対策にワクチンを活用する政策に転換するには、過去直面した課題の予防と対応準備が不可欠だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)