ビール業界の“不釣り合いな”提携の背後に潜む戦略とは?

 2014年9月、キリンビールホールディングスが、クラフトビール最大手のヤッホーブルーイング社との業務提携と出資を発表した。クラフトビールの市場規模はビール類全体のわずか0.5%にすぎない。ビール業界全体からみれば、ヤッホーブルーイング社は非常に小さい企業だ。それなのになぜ、キリンのような大手が提携を進めたのだろうか?

『真田三代弱者の戦略』
福永雅文著
日本実業出版社
249p 1500円(税別)

 ヤッホーブルーイング社には、他社にはない二つの特徴がある。一つは、「ラガービール」が主流の日本市場ではまだ珍しい「エールビール」を主力商品としている点だ。同社の看板商品「よなよなエール」は、モンドセレクションで最高金賞を3年連続で受賞するなど、大手に勝るとも劣らぬ高品質を誇る。

 もう一つは、大手が得意とするマスマーケティングではなく、メールマガジンなどを活用した顧客との直接的コミュニケーションでニッチな顧客基盤を確立している点だ。大手では1%程度しかないネット通販の売上げ比率も、全社売上げの3割を占めている。

 ビール全体の出荷量が10年連続で過去最低記録を更新している中、同社は確かな商品力と地道なマーケティングによって9年連続で増収増益を達成している。キリンビールは、クラフトビールというまだ小さいが拡大しつつある市場での圧倒的な強さを取り込むことで、ビール市場全体の流れを大きく変えたかったに違いない。

 こんな事例を紹介したのは、ヤッホーブルーイング社の戦略が本書のテーマである「弱者の戦略」に通じると考えたからだ。

 本書の著者、戦国マーケティング代表取締役の福永雅文氏は、NPOランチェスター協会常務理事で、ランチェスター戦略学会常任幹事。小が大に勝つ「弱者逆転」を使命とし、わが国の競争戦略のバイブルともいわれるランチェスター戦略を伝道する戦略コンサルタントだ。

 本書では、地方の小さな豪族にすぎなかった真田家の闘い方を、「ランチェスターの法則」と「孫子の兵法」を活用して分析している。