英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は参院選から数日たっての論評についてです。選挙直後の英語メディアには「では財政赤字はどうするのか」という「わあ大変だ」的論評が多かったのですが、それから数日たっての複数記事には「とは言うものの、実はこれは……」的な書き方が目立ちました。より良い何かへの動きは、始まっているというのです。(gooニュース 加藤祐子)

敗因は消費増税議論そのものよりも

 参院選の直後には、消費増税を口にした菅直人代表率いる民主党が参院選で大敗し、日本の財政再建は見通しが立たなくなった、これは大変だ――と懸念する論調で複数の英語メディアが選挙結果の記事を書いていたのは、先週ご紹介しました。

 それから数日すると今度は、「いや、実はこれはそうそう悲観したことではないし、民主党にとってもチャンスでもある」という論調の記事がいくつか目につきました。「大変だ大変だ」とばかり言っていたのでは目新しさもないという判断か。それとも複数の世論調査で、日本人は必ずしも消費増税を全面拒否しているわけではないという結果が出たからか(7月12-13日の読売新聞調査では、消費税率引き上げが「必要だ」と思う人は64%、同期間の朝日新聞調査では、消費税引き上げに「賛成」は35%、消費税引き上げの議論を「進めた方がよい」が63%)。

 英『エコノミスト』誌は15日付記事に、「またツイストしようぜ」と訳したくなる「Let's twist again」という見出しをつけて、「日本ではこういう状態を『ねじれ国会 (twisted Diet)』と言う」と、選挙結果を解説。「日本では、選挙で敗れた場合に党首が高い代償を払わされるのが慣習」なので、続投表明の菅首相が9月予定の民主党代表選で代表の座を追われることになれば、日本では4年間で5人ものリーダーが「不名誉な退任をさせられる」ことになるのだと説明しています。

 ここまではだいたいどの日本語記事も英語記事も同じような論調ですが、『エコノミスト』は続けて、「しかし菅氏を放り出す前に、民主党は選挙結果についてあまり性急に、間違った結論に飛びつかないよう注意すべきだ。実は議席数が示すほどのひどい結果ではなかったのだから」と指摘し、民主党の「大敗」は日本の「ゆがんだ選挙地図」のせいでもあると解説。記事は上智大学の中野晃一准教授に取材して、人口比の議席数が多く自民党の伝統的な権力基盤でもある農村部で民主党は大敗したが、都市部では優勢だったし、比例区では民主党の得票率が32%と最も高く、自民党の24%に勝っていたことを取り上げています。

 記事はさらに、菅首相自らが敗因と言ってしまった消費増税についても、複数世論調査を見る限り必要と思っている日本人は多く、それよりも問題は首相の問題提起の仕方だったと。よって「民主党にとってより重たい教訓」は、有権者が消費増税に反対かどうかではなく、「有権者はいい加減で中途半端な政策提案に辟易としている」ことだと書き、民主党がこれまで何かを約束しては反故にしてきたやり口をやんわりと批判しています。

 同日付の別の『エコノミスト』誌記事も、消費増税提案で菅氏は「ヘマをした」とバッサリ。税率を倍増しなければギリシャのようになるという提案は「責任ある政治の在り方を示したつもりが、なんだか封筒の裏にでも走り書きしたもののように見えてしまった」と。「scribble on the back of an envelope(封筒の裏に走り書き)」というのは常套句で、日本で言うならば「チラシの裏に走り書きしたみたいな増税案に見えた」というわけです。しかも、「敵対的なマスコミ(hostile media)」が雇用や経済成長にどう影響するのか問い質すや、菅氏は「鳩山流に」「flipped and flopped(ああ言ったりこう言ったり)」と。先週は「flip-flop」という表現をご紹介しましたが、その別の言い方がこれです。

 ほぼ同じことを英『フィナンシャル・タイムズ』紙のミュア・ディッキー東京支局長も、16日付の解説記事で書いています。「もし一部で言われるように民主党敗北の結果として、1年ともたない総理大臣の5人目に菅首相がなるのだとしたら、消費税だけがその原因というわけでは決してない。民主党が敗北したのは、昨年の選挙で自民党の長期支配を終わらせた同党に対して、有権者がつくづく落胆しているせいでもある」と。さらに、「菅首相の問題は、日本が必要とする税金・経済・金融のデリケートな諸政策を彼なら上手にさばけるだろうと、有権者を説得できなかった点にある」、「菅首相と後継者たちにとっての本当の教訓は次のようなものかもしれない。増税を話題にするのはいいが、それなら説得力のある話し方をしなくてはならないのだ」と。

 つまり、民主党は言われているほど負けた訳ではないし、国民は言われているほど消費増税を毛嫌いもしていない。問題は、民主党に説得力がないことなのだというわけです。

 ならばどうしたらいいのか? 

 『エコノミスト』の最初の記事は、代表選で菅か小沢かと個々人の争いをしている場合ではない、「日本はもうずっと、徹底的な政策論議を後回しにしてきたが、いま必要なのはそれだ」と指摘。先週のコラムで日本の政治はこれから「政策論議をするのか、政争をするのか(policy or politics)」が問われていると書きましたが、当然のことながら『エコノミスト』は、「ちゃんと政策論議をしろ」と言っているわけです。

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