復習
対談場所の集英社に、ドクターズバッグを持ってスーツ姿の西内啓が現れた。
医者のような姿をした「統計家」の登場だ。
「日本全体がもっと普通にデータを使うようになって、人生をいい方に転がせるようになるのがいい」。
幼少期に『ドラゴンクエスト』のモンスター遭遇率を数値化して、友達に配っていた少年は、日本初の統計家になった。
「一番センスがあって勘が働く人がわかっていることを、誰もが使えるものとしてノウハウに落とし込む」
経験や勘をデータとして集計し、分析し、皆が使えるものにする。その根本にあるのは、「人間を幸せにするために統計学はある」という思想だ。
データというのは強者が使うものだと思われがちだが、本当は弱い人が勝つためにある。
「理想は統計学が当たり前となって、統計家の仕事が不要となるボトムアップされた世界」と彼は語る。
けれども、とかく人間は根拠に向き合うことを嫌う。
「論より証拠」は無視され、感覚的に行動し、過ちを繰り返す。
いまだに僕らの周りには「背中を見て学べ」「失敗は成功のもと」など根拠がない言葉が溢れ、知らぬ間に強者のみが有利な世界が作り上げられている。
「戦争は統計的には大赤字」。そんな西内啓の言葉が、対談後もずっと心に残っている。
統計家
1981年兵庫県生まれ。東京大学医学部卒業(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータを活用するさまざまなプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および人材育成に従事。著書に2014年のビジネス書大賞を受賞し、シリーズ40万部を突破した『統計学が最強の学問である』『統計学が最強の学問である[実践編]』(いずれもダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)ほか多数。
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。