「スキル」よりも「ビジョンの共有」を

佐渡島 既成概念に左右されないようにしようと考えると、学生からの新卒を採っていくことにならざるを得ないなと思っているんです。しかし、そうすると、彼らが社会常識がなさすぎて困る。

入山 なるほどね、いい感じがほしいんですよね。

佐渡島 そう。教えるコストが超高くなってしまっていて、会社としてしんどいなという状態なんですけれど。入山先生の本では、学びが悪いやつがいても組織が教える体制が整っていくから、最終的には強いと書いていますよね。

入山 全員学びが悪いんとダメなんですけどね。

佐渡島 そうそう、バランスが大切ですよね。学びが遅いやつは、組織の教える体制を整えてくれてるんだなと思うと、受け入れられる気がしますね。質にも差があるけれど、「まあ、いいか」っていうふうに思うようになったりしてきたんですよね。

入山 ああ、よかったですね。

佐渡島 漫画家の新人を育てる際に、新人賞を獲った漫画家に、連載に向けてネーム持って来てくださいっていうと、持って来ない人がかなり多い。

入山 佐渡島さんの『ぼくらの仮説が世界をつくる』にも書いてありましたね。

佐渡島 チャンスが与えられても、やり切れるやつってなかなかいないんだなと思っています。ほかにも、学生のインターンをガシガシ入れるんですが、「自由に来ていいよ」っていうと、みんなすぐに来なくなっちゃう。

 だから、逆に入社の選考ってしっかりするよりも、ガシガシ入れて、残った人間だけでやるほうが、ベンチャーにとってはいいんじゃないかなと思います。

入山 僕もそのほうがいいと思います。というのは、やっぱり、これから大切なのはスキルよりもビジョンなんですよ。ビジョンっていうのは平べったい言葉ですけど。細々したスキルより、経営者の考えてる思想とか、世界観に共感できるかっていうほうが大事。ベンチャーにはそういうビジョンとビジョンに共感する社員がいるので、そういうところで勝てるのではないかと思います。

 コルクのような会社で、佐渡島さんのビジョンや世界観を理解できるようになるには、やっぱり同じ職場で、こうやって同じ空気を吸うっていうのが決定的に大事だと思うんですね。それに共感する人って、多少仕事が辛かったとしても、たぶん会社に残ってくれると思うんですよね。

 そういう人だけ、スクリーニングできればいいんじゃないですかね。ラジオ業界とかはコルクとビジネスモデルが近いと思うので、そのあたりからマッチする人材が出てくるといいですよね。

ラジオ的コミュニケーションの可能性

入山 ラジオの世界には、いわゆる、「ハガキ職人」がいて、でも、べつにあのコミュニケーションて、本当に出入り自由じゃないですか。辞めてもいいわけだし。佐渡島さんが、目指すコミュニケーションの形が似てますよね。

佐渡島 はい、本当にラジオ的な世界をつくっていくっていうのは、これからは必要なんだろうなと思っていて。

入山 おもしろいですね。佐渡島さんは、場づくりをネットベースでやろうとしているのかなと思うんですが、リアルとネットのコミュニケーションの違いはどう捉えているんですか?

佐渡島 本質的には、全部セットなんです。ただ、リアルはコストがかかって、利益が残っていかないんで、ネットからスタートしている。本当はリアルから始めるほうが強いんですよ。もしも、リアルを持ってる人たちが、僕と同じ思想を持ってやり始めたら、すぐに成功すると思います。

 実はいま、ちょっと協力してもらって一緒にやろうとしているのは、宇田川町とかにある「カフェマメヒコ」っていう喫茶店なんです。その喫茶店には、むちゃくちゃファンがいるんです。固定のファンがいるから、値段を時間によって変えるなんてこともできる。

入山 合理的ですね。

佐渡島 合理的です。コアファンにはうちが空いてるとき、つまり価格がやすいときに来いよというわけですね。有名店だから、混雑する時間に来る「いちげんさん」からは高い金取るよと言って、ほかの喫茶店の1.5倍ぐらいの価格にする。

 北海道の自分の畑で豆をつくって、その上澄み中の上澄みの超いいやつを、ネット上でコアなファンに、限定販売とかもしている。リアルでできたファンをネットにつなげているんですよね。リアルを持ってる人たちが、そこをブランド化して、ECサイトとかやり出すと強いっていう象徴的存在です。

入山 おもしろいですね、なるほどね。

佐渡島 コミュニティができてからリアルをつくると利益率はよくなるんですけれど、コミュニティができるまでリアルの場をつくる続けると、利益率が低いんですよね。

 だから、まずはネットで、定期的にオフ会みたいなものをして、コミュニティをつくる。その後、リアルで会っていくみたいなことをやろうとしてるんです。最終的には、ネットで知り合った人たちが僕ら抜きで会う、みたいな流れにしていけたらなと思っています。

※続きは明日公開します。