英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は「中国がついに日本を追い抜いて世界第2位の経済大国になった」という報道についてです。日本の主なメディアは「4~6月期の名目GDPで日中が逆転したため、2010年の日本は中国に抜かれる可能性が高まった」という抑制的というか素っ気ない報道ぶりだったのに対して、一部の英語メディアは「中国、日本を抜いて2位に」とかなり派手に書き立てています。それを読みながら私は、日本における「幸せって何だっけ♪」とグルグル考えていました。(gooニュース 加藤祐子)
日本ではあきらめの空気?
英仏の極右党首らに靖国神社を参拝されて、祀られている兵士たちはどう思うのだろう。これはなんというアイロニーに充ち満ちた事態だろう。そう思い、そういうコラムを書くつもりで英語メディアを見ていた日本時間16日昼過ぎ、『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』紙サイトを開いたら、「China Passes Japan as Second-Largest Economy(世界第2位の経済大国として中国、日本を追い抜く)」という見出しがサイトの一番上から目に飛び込んできました。
おお、ついに……と思い、急ぎ今週のテーマを変更。考えてみればフランス国民戦線のルペン党首やイギリス国民党のアダム・ウォーカー氏が靖国神社を参拝して、彼ら独自の愛国精神を語ったという顛末については、「なんと奇矯なアイロニーか」という以上に特に語りたいこともないので。
対して「中国は近々、日本を追い抜いて世界第2位の経済大国になる」という予測はもうここ数年来、ことあるごとに英語記事で目にしてきた表現だった ので、「おお、ついに」という感慨がありました。あまりに「いよいよ中国が抜くぞ」と言われ続けていたので、むしろ2009年中にそれが実現しなかったことに肩すかしの感さえあったほどです。
今年の初めにはたとえば英『エコノミスト』誌のビル・エモット元編集長が『タイムズ』紙で、 「日本経済は世界第2位の地位を中国に失うだろうが」、「実際に中国がいつ日本を追い越すのかというタイミングはたいして重要ではない。日本がドイツを追い越した時のことなど、学者以外誰も覚えていない。人口の多い国の経済規模が大きくなるのは当然のこと」と書いていました。
確かに日本がいつドイツを追い抜いたのか私は即答できないし(いま調べたら、1968年だそうです)、2010年4~6月期や2010年8月16日 という日付を後世が記憶するかは心許ない話ですが、いずれにしても、内閣府が16日に日本の4~6月期の名目GDPが同期の中国を下回ったと発表したことについて、NYT記事は「目覚ましい成長ぶりを30年にわたって続けた中国は、第2四半期に日本を追い抜き、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国となった」ときっぱり断定。「この一里塚は、もうかなり前から予期されていたこととはいえ、中国の台頭が本物であり、世界は新しい経済超大国の存在を受け入れなくてはならないのだと示す、何よりの証拠だ」とも。
記事では米有力シンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」のエコノミストが「とてつもない意味合いのあることだ。ここ10年来ずっと進行してきた現象を再確認するものだ。つまり中国が、日本を経済的に上回りつつあるということ。中国周辺の国々にとって最大の貿易相手はアメリカでも日本でもなく、中国なのだ」とコメントしています。
(ちなみに英語うんちくですが、中国が日本を「上回りつつ」と訳したのは「eclipse」という単語。日蝕とか月蝕の「蝕」も「eclipse」。つまりAがBを覆い隠してしまってその光が外に届かなくさせることを意味します)
記事は、「1980年代には日本経済がアメリカ経済を追い抜くかもしれないという話もあったのに、その後の日本経済は10年以上の長い停滞に陥った。日本経済は成熟し、人口の高齢化は急速に進んでいる。対して中国は急激な都市化のまっただなかにあり、生活レベルははるかに低く、成長の余地がたくさんある」という分析も紹介。さらに中国がアジアで圧倒的なだけでなく、アフリカや中南米においても「世界経済に大きな影響力を発揮している」という、元国際通貨基金(IMF)中国担当のエスワル・プラサド教授の見解をも紹介しています。
そしてさらにNYT記事は、「日本では、あきらめの空気が漂っていた(In Japan, the mood was one of resignation)」と。しかも、中国に取って代わられつつある日本自身が、中国の経済成長の恩恵を受けているのだと。
確かに。たとえば日本の小売業がいかに中国の経済発展の恩恵を受けているかについては、東京の銀座をふらりと歩けば、もうこれでもかというほど分かりますから。ニコニコ嬉しそうにたくさんの買い物袋をぶらさげている人たちがいたら(それこそ、よくぞ1人の人間がそんなにたくさんの袋をぶら下げられるものだと感心するほどたくさん)、その人たちはほぼ間違いなく中国語を話していますから。
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