社会保険料ってなんでこんなに高いの?」
「安くできる方法ってないの?」
「どんな時に、どんな給付がもらえるの?」
「細かい話はいいから、重要なことだけ知りたい!」


そんな社会保険にまつわる素朴な疑問や不満を、ストーリー形式で解決していく本連載。

第13回は、もしものときの「失業保険」のお話。昔と今では、給付の条件が変わっているので注意が必要です。

(書籍『いちばんわかる! トクする! 社会保険の教科書』より抜粋)

失業保険って何日間もらえるの?

佐藤さん:ところで、「失業保険」って、どれくらいもらえるんですか?

田中社長:コラ、いきなり失業保険か。

松島先生:田中社長はムッとすると思いますが、働く身としては知っておきたいことですからね。「失業保険」というのは、正しくは雇用保険の「基本手当」と言います

 雇用保険の「基本手当」は、被保険者が離職したときに支給されます。手当をもらえる期間を示す「所定給付日数」が決まっていて、その日数は、離職した理由や離職した日の年齢、雇用保険の被保険者であった期間によって、90日~360日の間、つまりおよそ3ヵ月~1年間です。

 とくに、会社の倒産や会社都合による解雇など、時間的余裕もなく離職せざるをえなかった人は「特定受給資格者」といい、給付日数が一般より長くなります。事業所の移転で通勤できなくなって退職した場合や、賃金が未払いになった場合も特定受給資格者です。

 また、契約社員など、期間の定めのある労働契約が更新されずに離職した場合などは「特定理由離職者」と言って、やはり給付日数が長くなります。体力の不足や病気・ケガなど、正当な理由がある自己都合で離職した場合も、特定理由離職者です。

 なお、ハローワークで職業相談をすると、職業訓練の受講などを指示されることがありますが、その場合は訓練が修了するまで基本手当が支給されます。

佐藤さん:たしかに、失業保険は給付日数が決まってるって聞いたことがありますね。

松島先生:次の図を見てください。かなり幅があるでしょ。


梅田先生:ん?この図の真ん中に、「正当な理由のない自己都合」とあるけど、正当な理由のある自己都合ってなんだろうね。

松島先生:あれ、梅田先生。外出先からお戻りになってたんですか?

梅田先生:ええ。また田中社長と佐藤さんのお二人が来てらっしゃるので覗いてみたら、辞める辞めないの話になっていたのでね……はは。

佐藤さん:勉強熱心なだけですよ。はは。

 「正当な理由のある自己都合」とは、たとえば転勤を言い渡された勤務地が片道2時間もかかって、遠すぎるので辞めます、というような場合です。ほとんど会社からの追い出しのようですが、実際に、あり得ることです。

失業保険って「いくら」もらえるの?

田中社長:松島先生、私の記憶では、もっと支給されていたような気がしますよ。いやね、私は30年ほど前に一度会社を辞めて、そのあといろいろあって今の会社をつくったんですよ。その時は、退職して1ヵ月後ぐらいから、6ヵ月間も支給されましたよ。金額もかなり多かった。

松島先生:たしかに30年前なら、退職前6ヵ月の「賞与も含む収入」の80%ぐらい出たかもしれないですね。

佐藤さん:ウソでしょ!こないだボクの友人が会社を辞めてハローワークに手続きに行ったら、支給までに3ヵ月かかると言われたそうですよ。しかも、支給額の計算には賞与は含まれなかったとかで、えらく少額。かなり焦ったそうです。

梅田先生:ということは、報酬を年俸にして賞与なしにしておいたほうがいいねぇ。

松島先生:ははは。梅田先生。まるで佐藤さんみたいですねえ……。でもその通りです。昔と今ではだいぶ違っているのは事実ですね。だから佐藤さんも、軽率に会社を辞めないほうがいい

佐藤さん:要するに自己都合で会社を辞めると、支給されるまで長い時間がかかるんですね。社長、ボクが辞めるときは会社都合でクビにしてください。

田中社長:お望みなら今すぐクビにしてやるぞ。

松島先生:……まあまあ。いずれにしても雇用保険の環境というか支給条件は、辞めていく人には少しずつ厳しくなっています

もし、クビになったら……。

 基本手当として支給される1日当たりの金額を「基本手当日額」と言います。退職者には、この基本手当日額の金額が支給されます。

 基本手当日額は、「賃金日額」に一定の率を掛けて算出される金額です。賃金日額は、離職した日の直前6ヵ月間に毎月支払われた賃金の合計を180で割って算出します。

 この場合、賃金に含まれるのは「賃金、給料、手当その他名称のいかんを問わず」とされているので、社会保険の報酬や労災保険の賃金とほとんど同じです。

 ただし、賞与など臨時に支払われる賃金、3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金は含みませんここが、昔と大きく変わった点ですね。極端な話、昔は賞与をもらってすぐ辞めたら、この基本手当が大きくなったのです。また、食事や住居など現物給与の範囲が少し異なります。

 で……この、6ヵ月間の賃金の合計を180で割った金額が賃金日額で、それにおよそ50%から80%の率を掛けた金額が基本手当日額になるわけです。掛ける率は、賃金が低いほど高い率になります。また、60歳から64歳では45%から80%が掛ける率です。

 なお、基本手当日額には年齢区分ごとに上限額が定められています。たとえば、30歳未満の場合の上限額は6395円です(平成27年8月現在)。

佐藤さん:1日当たりの賃金の50%から80%が基本手当日額、ですか。ずいぶん幅がありますね。これは要するに、年齢などによって違うわけだ。

松島先生:ただ先ほど佐藤さんも言っていたように、辞めた日からは受給できません。

 基本手当の支給を受けるには、ハローワークに行って求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思を示す必要があります。いつでも就職できる能力があり、本人やハローワークが就職の努力をしているのに「失業の状態」にある場合に、基本手当が受給できるわけです。

 ですから、指定された「認定日」にハローワークに行って「失業認定申告書」を提出し、求職活動をしている実績と、失業の状態を認定してもらわなければなりません

 また、基本手当には7日間の「待期期間」があり、さらに正当な理由がない自己都合による退職では3ヵ月間の「給付制限」があります。その場合は、給付制限後の認定日にハローワークで失業の認定を受けた日の分から基本手当の支給が始まります。

佐藤さん:7日間の待期期間と3ヵ月間の給付制限、それから認定日……うわ、やっぱり3か月以上かかるんだ。

田中社長:こちらからクビにすれば給付制限はないんだろ?だったら今すぐ……。

佐藤さん:ちょ、ちょっと社長。さっきのナシ!

松島先生:「月に1度はハローワークに行って、こういう就職活動をしましたけど、だめでした」ということにならないと、支給されません。佐藤さんはデザイン関係の仕事を探すのでしょうが、ハローワークにはデザイン関係の求人そのものがあまりない。だから、新聞広告を見て履歴書を出しましたとか、ちゃんと言わないといけません。

梅田先生:ハローワークの面接官が厳しかったら、デザイナーにこだわらずに他の職種でも探しなさい、と言われるかもしれませんね。

松島先生:はい。実際そういうことはありますね。

 基本手当の受給期間は、原則として、離職した日の翌日から1年間ですが、その間に病気やけが、妊娠、出産、育児などの理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことのできなくなった日数だけ、受給期間を延長することができます。ただし、延長できる期間は最長で3年間になります。

 また、離職の日以前2年間に、被保険者であった期間が通算して12ヵ月以上あることも支給の要件になっています。特定受給資格者と特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者であった期間が通算して6ヵ月以上あればOKです。

(続く)

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