営業ひと筋のKさん、51歳。長年、下半身の激痛に悩まされてきた。椎間板ヘルニアを指摘されているが、手術するほどではないという──。

 痛みの原因の多くは筋肉にある。このことはあまり知られていない。米国の故ケネディ大統領が後半生を腰・背中の激痛に耐えて過ごしていたのは有名な話。上院議員時代に脊椎固定術を受けたが、効果はなく逆に術後感染症になる始末。彼を絶望と痛みから解放したのは、適正な診断とトリガーポイントブロックと呼ばれる注射だった。

 JFKに下された診断名は筋・筋膜性疼痛症候群(MPS:myofascial pain syndrome)。要は筋肉の異常なけいれん(スパズム)からくる「筋痛症」だ。筋肉痛?と侮ってはいけない。筋肉のけいれんが引き起こす疼痛としびれは歩けない、座ってもいられないほど激越なもの。このためMPSによる痛みは、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と誤診されることが多い。

 通常、筋肉の損傷は数日~数週間で修復される。しかしその際、冷えや刺激の繰り返し、あるいは心身のストレスで血流が滞ると筋肉が収縮したまま戻らなくなる。できればこの時点で筋肉をほぐしたいがなかなか難しい。やがて収縮した筋肉のなかにコリコリした索状硬結(しこり)が生じてくるのだが、圧迫されると飛び上がるほど痛いばかりか、身体の他の部位に関連痛と呼ばれる痛みが広がることがある。ここを特にトリガーポイント(TP)といい、MPS治療のカギを握る。