いいとこ取りは許さない!
EUが警戒する「離脱連鎖」

 これに対しEU側は、EU域内の混乱はもとより広く世界の実体経済に及ぼす悪影響の拡大や加盟各国への「離脱連鎖」を未然に防ぎ、抑え込んでいくためにも、英国に対して迅速な離脱通知を強く求めている。英国側が50条に基づく正式な離脱交渉に入る前に、非公式な交渉を持ちたいとの思惑に対しても、条文の解釈上、正式な離脱通知がない限り、「いかなる事前交渉にも応じられない」(ユンケル欧州委員会委員長)と突き放している。EU側が英国に続く離脱連鎖を警戒しているためである。英国のEU離脱交渉の壁は厚く、その溝はそう簡単に埋まりそうもない。

 離脱交渉の最大の焦点は、英国が強気に「移民の流入を制限」する一方で、「EUの単一市場への参加は維持」するといういわば両方取りを狙っているのに対し、EU側が「いいとこ取りは許されない」(メルケル独首相)と厳しく釘を刺しているため、英国側がEUに対し、いずれを重視してどう乗り切るか、その攻防にかかっていることだ。EU側は英国抜きで開いた6月末の非公式の首脳会談で、「英国が移民を受け入れなければ、EUの単一市場への参加は拒否する」との立場を確認した。これに対し、英国側の交渉方針はなお不明で、英国内の意見調整に手間取り、難航は必至と見られている。

 そんななか、メイ首相は7月20日にベルリンを訪れ、メルケル独首相と会談した。会談では、離脱交渉の開始時期について、メイ首相が「英国内で交渉方針をまとめるための準備期間が必要」で、「来年以降になる」と伝えた。メルケル首相も「入念な準備は英国だけでなく、皆の利益になる」として、理解を示した。英国はEUの単一市場への参加を続けながら、移民の流入を抑えるため、EUの基本理念の一環である「人の移動の自由」は制限したい。しかし、EU側は英国のこのいいとこ取りを認めるわけにはいかないため、両者間の隔たりは当面、縮まりそうもない。

 しかし、英国とEUの双方にとって、離脱交渉を徒に先延ばしにしておける余裕は全くないはずである。英国にとっては歴史上、最も成功したとも言われてきた連合王国が今解体の危機に直面しており、EUにとっては加盟各国のEU批判派や排他的なナショナリズム・ポピュリズムに偏る右派につけ込まれて離脱が連鎖する、いわゆるドミノ現象を招きかねないからである。