経営×統計学

もう、ほっ統計(とけ)ない!──統計的思考を鍛える 俗説バスター統山計子

意見分かれる環境問題
怪しい時は引用元当たれ

 カッコ~ン。静寂の中に響き渡る鹿威(ししおど)しの音。近所の口うるさいおばさんのしつこさに負け、計子は嫌々、お見合いの席にいた。

 「ったく、なんで、おばあちゃんまで来るのよ……ぶつぶつ」「仕方ないでしょ計子、お父さんが急に風邪ひいちゃったんだから。すいませんねえ、お義母さん」「いえ、結構ですよ。私も存分に品定めさせていただきますから」

 「え!?」。計子以上に数字や統計にうるさい祖母だけに、母の脳裏には一抹の不安がよぎった。

 お見合い相手の男、金山金男はここらでは有名な地主で、家業の不動産業を継いでいる。常ににやついている小太りで、お世辞にも美男子とはいえない。

 「いや~、まったく、今年は急に空気が汚くなって、たまりませんなあ。中国のほれ、にーてんご、でっか? 臭いますわあ、空気が」。東京生まれ東京育ちのはずだが、金山は鼻をクンクンさせながら、うさんくさい関西なまりで切り出した。

 シーンとしてしまった場を和ませようと、計子の母親が無理やり受け答えする。「そうですねえ、ほんと、環境問題って頭が痛いですわね。私も毎朝、缶や瓶、ペットボトルの仕分けやらで時間を取られてしまってもう……」。

 金山は遮って「あ、お母さん、それ、意味ないでんなあ。ペットボトルって仕分けても結局一緒に燃やしちゃいますし、再利用していないって、テレビでおエラい先生が言うてはりましたわ」。

 イライライラ……。計子が「あ~! もう、ほっ統計(とけ)ない!」と言おうとした瞬間、「たわけー! もう、ほっ統計(とけ)ぬわ!」と叫んだのは祖母だった。

 「おぬし、さっきから、黙って聞いていれば、ぺらぺらと口からでまかせを言いおって。だいたい、いきなり“お母さん”は失礼であろう!」

 気圧(けお)された金山は「え、いや、その、おばあさまが見合いについてくるというのも、聞いたことありませんが……」と、標準語で弱々しく言い返すのが精いっぱい。

 「だまらっしゃい! 江戸時代から続く、数学者の血脈を持つ統山家をなめるでない。常識的に考えて中国の大気が汚れたのは今年からであるわけがなかろう」

 突如として話題になった感がある、「PM2.5」と呼ばれる中国の大気汚染問題。その理由は、突然今年、中国で工場が山のように建ったからではない。中国当局がPM2.5を主要都市で正確に計測し、頻繁に公表を始めたのが12年からだからだ。

 「ペットボトルについても、テレビで見ただけだろう。おぬしは、その時々に話題となることの上っ面をなぞっているにすぎぬ。自分の頭で考えずにな。最低限、原典に当たりなさい、原典に!」

 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』(武田邦彦著/洋泉社)は、世間で言われている環境問題が実はウソに満ちあふれていることを指摘し、テレビでも話題となった。ペットボトルの分別は意味がなく再利用も進んでいないというのだ。

 ところが、この本を真っ向から否定する『“環境問題のウソ”のウソ』(山本弘著/楽工社)が出版されるなど、批判が相次いだ。

 特にペットボトルの部分では、引用データが引用元の機関の発表とまったく数字が異なっているなど、根本的な欠陥が指摘されている。まさしく「原典に当たる」という統計を見る目が試されたようなケースだ。

 ここでは武田氏、山本氏の主張の是非は検証しないが、環境問題は対立する主張の本が多く出版されているので、“統計力”を磨くのにうってつけの題材といえる。

「経営×統計学」



週刊ダイヤモンド編集部


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