前回まで、日本の個人金融資産は、預貯金の占める割合が極めて大きいいびつな状況になっていることに触れてきたが、日本で預貯金がこれほどまでに多い理由については、さまざまなことが言われてきた。その中で、なんとなく受け入れてしまうのは、日本人は農耕民族であり、安定安全を好むから、というものである。たしかにわかるような気もするが、本当にそうなのだろうか。

〝貯蓄意識〟は国の奨励政策が生み出した

 戦前の日本は、預貯金偏重ではなかった。銀行融資を中心とした「間接金融=お金を借りたい人と貸したい人の間に第三者が存在する取引」も、株式や債券などへの投資を中心とした「直接金融=お金が必要な人に第三者を介さず直接出資する」も入り乱れた、〝資本主義〟が成立していたと言われている。もちろんそれは、厳しい自己責任と収入格差の時代でもあったのではあるが……。

 では、なぜ戦後の日本で、預貯金=間接金融がこれほどまでに大きくなったのか。松本さんは、その理由を考えていくうちに、それが国の政策だったのではないか、ということに思い至る。

「第二次世界大戦に負けて国が焼け野原になり、日本は当時、政府にまったくお金がありませんでした。それどころか、国際社会には借金があったわけですね。焦土と化した日本をどう再興しようかと考えたとき、誰かが天才的な発想で思いついたんでしょう。個人の預貯金を使おう、と」

 政府にはお金はなかったが、個人にはまだお金があった。そこで、特に国営だった郵便貯金にそのお金を持ってきて、まとめて活用することを考えた。実際、そのための〝機関〟が存在していた。