「戦後まもなく、貯蓄広報中央委員会というものができているんです。これは日本で唯一、公の個人の資産形成に関わる組織でした。そんな唯一の資産形成のための組織に、貯蓄という名前がついていることからも、何をしようとしていたかは明白でしょう。日本銀行の外局という形でつくられていたんですが、ここがさまざまなプロパガンダをするわけです。貯蓄は美徳である、貯蓄はすばらしい、貯蓄こそ日本を救う、と。そうやって貯蓄を奨励し、お金を集めた。それこそ戦時中に、戦艦大和の油がないからと、国民に松の油を集めさせて持ち込んだのと、同じ発想です」

 日本中の個人に郵便貯金をさせてそれを集める。それを、財政投融資として国が使う。民間の銀行預金も、国が厳しく管理する。そして使う方向性を国が定める……。

「日本の戦後の成長は、まさに奇跡と言われるものでした。あの敗戦のボロボロの状態から、ほんの数十年で世界第2位の経済大国になったのが、日本だった。それを可能にした原資こそが、貯蓄広報中央委員会のプロパガンダを通じて、個人がせっせと郵便貯金や銀行に貯めていった預貯金だったんです」

 そして、世界が考えられないような成長を日本が遂げることができたのは、虎の子のお金を集中的に投資したからだという。鉄、繊維、建設、機械……。次の時代はここに向かうと思ったなら、そこに一点張りする。巨額の資金を一気に入れた。もし、少ないお金をバラバラに少しずつ投資していたら、今のような日本の発展は難しかったかもしれない。

 このとき、どこに集中投資するかを見定めたのが、官僚や大手のエリートバンカーたちだった。学業優秀な人間を選りすぐり、エリートとして育て上げ、勉強させ、研究させ、留学させて、次の時代を切り拓くリーダーとして仕立てた。そして彼らが大胆に挑んだ〝一点張り〟は次々に成功することになる。