成功体験にしがみついたまま低成長の道へ

 だが、その成功体験から抜けきれなかったことが、〝問題〟を生んだのかもしれない。もはや戦後のようなお金が足りない時代ではないのに、世界第2位の経済大国になっても、人々はせっせと預貯金に励み続けたのである。松本さんは言う。

「同時に日本をめぐる環境が大きく変化して、次にどんな産業が有望なのか、どんな企業がリーディングカンパニーになるのかが、わかりにくい時代に突入していたんです。〝一点張り〟が、かつてのようにはいかなくなったということです」

 過去の成功モデルにしがみついた日本は、バブルが崩壊した1990年代以降に迷走を始めてしまう。〝使い道〟を委ねられた国も銀行も、もはやその答えは見つけられなかった。逆に、〝使い道〟の失敗例があちこちに噴出していく。バブル期の不良債権問題や国の無駄遣いは典型例である。そして、国も銀行も、お金の行き先をますます失ってしまう。

「実は政府には、早くから危機感はあったんです。戦後の成功モデルを変えなければいけない、と。それが、橋本龍太郎内閣の金融ビッグバン宣言であり、小渕恵三内閣の経済戦略会議でした。僕もゴールドマン・サックス時代、直接首相に会って話をしたことがありました。お金の流れを変えようというマグマが、間違いなく溜まっていた。変わらなければいけないという意識があったんです」