コロナ,がん,持病写真はイメージです Photo:PIXTA

 岡江久美子さんの訃報はまだ記憶に新しい。一部のメディアが昨年末に乳がん治療を受けていたと報道したことから、がん患者の間に動揺が広がった。

 実際にがん治療で死亡リスクが高くなるのだろうか。5月末に報告された英国のがん登録研究から紹介する。

 本報告は3月18日から4月26日に、英国内55のがんセンターを受診した進行がんの患者で、PCR検査で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とされた800人が対象。

 対象者は感染が判明した4週間以内に抗がん剤治療(免疫療法やホルモン療法を含む)を受けている、または過去12カ月以内に手術と術後の抗がん剤治療もしくは、放射線治療を受けていた人たちだ。

 がんの内訳は消化器がん、血液がん、乳がん、肺がんなど。また、およそ8割の人が、がん以外に高血圧や糖尿病、心血管疾患などの持病があった。

 COVID-19の症状は、発熱、咳、息切れなど典型的なもので、軽症者が412人(52%)だった。一方、315人(39%)が酸素吸入を必要とし、53人(7%)が集中治療室で手当てを受けている。

 最終的に226人(28%)がCOVID-19で死亡したが、その9割は健康な人々と同じように、有意に高齢で心血管疾患、高血圧を合併している人々だった。

 一方、PCR検査後の4週間以内に抗がん剤治療を受けた患者と、治療を行わなかった患者の死亡率は27% vs 29%で、がん治療の影響は認められなかった。放射線治療やホルモン療法、免疫療法でも同様であった。

 研究者は、医療が崩壊し、COVID-19合併がん患者に十分なケアを行えなかった可能性を指摘したうえで「がん治療でCOVID-19の死亡リスクが増加するとはいえない。健康な人と同じく持病の有無が問題であり、がん治療を延期、中断するリスクの方が現実的で深刻だ」としている。

 確かにCOVID-19は怖いが、目の前の恐怖に囚われ過ぎると「今ここ」で必要なことを見失ってしまう。主治医と相談しながらうまく治療を続けていこう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)