『週刊ダイヤモンド』6月12日号の第1特集は「教師大全 出世・カネ・絶望」です。文部科学省は教師の仕事の魅力を広めようと、Twitter(ツイッター)で「#教師のバトン」のハッシュタグを付けた発信をするように現場へ呼び掛けました。ところが教師たちは過酷な現場の惨状をどんどん投稿し、プロジェクトは大炎上。特集では、絶望を深める現場とともに、出世や人事、給与の面で教師の実態に迫り、彼らが抱える問題を多方面からえぐり出しました。このテーマの下、現役教師たちが内情を赤裸々に語る覆面座談会をお届けします。

A〜Dまでランク付け
その評価が給料に反映される

──2016年に教師の能力や業績を評価する人事評価制度の導入が義務化され、全国の自治体に広がりました。実際に現場ではどんな評価が行われていますか。

九州の公立学校教師A A〜Dまでランク付けされて、その評価が給料に反映されます。上のお気に入りはいい評価になりやすいっていうのは、一般企業みたいな感じですよ。

首都圏の公立中学校教師B 昔、学校の職場は「座布団型」と呼ばれる組織で、校長と教頭以外はみんなフラットでお互いフォローし合うかたちになっていました。それを国がピラミッド組織にしようとする裏には、日教組(日本教職員組合。最大の教職員労働組合)つぶしの狙いがあったと知り合いの校長が言っていました。役職をたくさんつくって、D評価をくず扱いする。そうすれば組合の団結を崩せると。

 評価は校長による一方的なもの。こんなに頑張っていますと文書を提出したところで、読む気がない。で、自分の言うことを聞く子分をA評価にする。それが給料に反映されるんだから、結局みんな校長のごますりになります。

 一方でこちらが校長を評価することはない。校長を評価するのは、学内での仕事ぶりを知りもしない教育委員会。だから校長は自分に都合のいいピラミッド型、つまりはお気に入り組織をつくれるんです。

──A評価の顔触れは?

教師B うちの学校の場合、部活動を仕切る中体連(日本中学校体育連盟。中学生のスポーツ振興を図る財団法人)に関わる教師たちがA評価になっています。

──昔の組織を知らない若手教師の中には、民間企業と同じように評価システムがあった方が働きがいがあるという人もいるのでは?

教師B 若い教師はアピールしまくります。勤務時間を超えて何時間も居残って仕事したり、校長に言われれば何でもやる。部活動の顧問も断りません。

──どんな評価の内訳になっているん

A評価とD評価は各20%
その給料差は10%

教師B 教師のうち20%はA評価。20%がD評価。教師たちは自分がD評価になりたくないから誰かをD評価にしようとおとしめたりする。それに死ぬほど働くし、絶対に上に逆らわない。働き方改革どころじゃありません。

学校の労働問題に詳しい労働組合(労組)関係者D 一般的に公立学校教員の給与には年齢給があるので、成果報酬に徹した民間企業における職務や評価で報酬を決める仕組みとは違います。B先生のところではA評価とD評価で月給にどれくらい差がつくんですか。

教師B 10%ぐらい違ってくるみたい。D評価の削られた給料が高い評価の人の給料に回るので、財政的な痛手はなし。

労組関係者D 公立学校の場合、教師の労働条件は基本的に自治体の条例で決めます。だから自治体によって給料への反映の仕方は違います。

首都圏の私立学校教師C 力量形成は1年で成せるものではないということで長期的に評価したり、教育っていうのはみんなでやる営みであるからとチームワークでの評価を取り入れたり、よくよく考えている自治体もあります。

※参考…ダイヤモンド編集部による東京都教育委員会へのヒアリングと「東京都教育職給料表」に基づく東京都の昇給モデル例は次の通り。
・職員の区分には「級」と「号級」がある。級は1級(講師など)、2級(教諭)、3級(主任)、4級(主幹・指導教諭)、5級(副校長)、6級(校長)に分かれる。40歳教諭(4年制大学をストレートに卒業して22歳で教員採用試験に合格したと仮定)の場合、40歳時点で77号級に相当し、月給は33万6800円。
・東京都では勤務の成績を5〜1の5段階で評価(5が最高)。これを号級に換算すると、最上位は6号級(8700円分)昇給する。上位は5号級(7300円分)、中位は4号級(5900円分)、下位は3号級(4500円分)、最下位は昇給なし。査定は年に1回。懲戒処分はもちろん、病気などで半年以上休むと昇給なしとなるケースがある。
・最上位は教師全体のトップ10%以内、上位は最上位を除いたトップ30%以内に限定される。

──学校のピラミッド組織において、校長の力って強いんですか。

校長、中体連、教育委員会
この誰かに逆らうと「冷や飯」

教師B 校長権限は校内では絶大です。私、校長命令で机を事務室に移動させられ、「そこにいろ」と1年間干されました。他の先生から隔離するというパワーハラスメント。

 他にも私の授業をちょっと見に来て、空き時間に校長室に呼ばれて「さっきの授業の話ね……」と授業の指導をするふり。「座ってろ」と言って校長本人は部屋を出ていってしまったりする。

 空き時間がつぶされて仕事が終わらず、残業せざるを得なくなる。これ、校長たちの間でよく出回っている手口です。

──なんで目を付けられたんですか。

教師B 「部活動をやりません」って言ったことから全てが始まりました。「おまえは中体連に逆らうのか」と怒鳴られた。地域の運動活動に参加しているので「私は地元でやります」と返したら、校長の気に障った。

 部活を断ると仕返しがやってきます。他の県で「部活はやりたくない」って言った結果、片道3時間のところに転勤させられたっていう例もあります。

 中体連、校長が入る校長会、教育委員会の各組織が同じようなメンツで入れ替わったりするので、この誰かに逆らうと冷や飯を食わされる。異動までさせられちゃう。

──ルール的には部活動の強制はできないのでは?

労組関係者D 公立学校において、部活動を強制できないのではなく、“勤務時間外の”部活動は強制できない。現実には、部活ってほとんどが勤務時間外ですけどね。

 現場にそれを拒否なんかできる雰囲気はない。民間企業で残業を拒否しづらいのと似たような感覚だと思います。残業分の給料が払われていないところが決定的に違うんですけどね。

 私立学校の場合は、労働契約・就業規則でどのようになっているかによります。

教師C うちは部活動に不熱心な学校なので、部活動でどうこうはないですが、校長は権力を握る絶対的な存在。仕事外しは私もやられました。クラスや学年の担当を外されたり、生徒の保護者もいる席で説教を垂れられたり。

教師B 叱責は今ほとんどしませんね。言質を取られるから。やんわりと丁寧に権力を使っていじめてくる。

 うちの学校は主任以上が全員、中体連の幹部です。自分たちの仲間を上に引っ張る構造で、上は体育会系ばかり。校長の中には漢字を書けないとか笑っちゃうような人もいます。

 このエリアでは校長の3割が体育教科の出身。異様に多い。彼らは残業で部活動を何十時間やろうが、趣味なんで倒れたりしない。一方で体育じゃない教師は部活を強制されると過労で倒れてしまうんです。

教師A B先生のところも、C先生のところも、ものすごいパワハラですね。そこまでパワハラしてたら、うちは組合が動きますよ。 (後編へ続く)

(聞き手/ダイヤモンド編集部 松野友美、臼井真粧美)

教師の出世・人事・年収を大解明!
ブラック職場の知られざる裏側

『週刊ダイヤモンド』6月12日号の第1特集は「教師大全 出世・カネ・絶望」です。文部科学省は教師の仕事の魅力を広めようと、「#教師のバトン」プロジェクトを3月末に開始。SNSのTwitter(ツイッター)で「#教師のバトン」のハッシュタグを付けた発信をするように現場へ呼び掛けました。

 ふたを開けてみれば、教師たちが投稿したのは現場の過酷な惨状。魅力を伝えるどころか、怒りや苦しみをあらわにした本音をぶちまけ、プロジェクトは大炎上しました。

 本特集は絶望感が漂うブラック職場の知られざる裏側に迫るとともに、出世や人事、給与について解明し、教師が抱える問題を探りました。教育という崇高な使命に身をささげる聖職者のような教師だって一人の労働者。民間企業のビジネスマンと同様に、キャリアだったり家族を養うためのカネだったりを考えているからです。

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 魅力ある職業であっても、「このままでは次世代に次世代にバトンは渡せない」という真実を多方面からえぐり出しました。

(ダイヤモンド編集部 臼井真粧美、土本匡孝、松野友美、大根田康介)