蔡英文・台湾総統が「地味」でも真の民主的リーダーと呼べる理由Photo:NurPhoto/gettyimages

「神対応」を実現した
台湾当局のコロナ対策

 コロナ前における筆者の最後の海外出張は台湾だった。4年に1度の台湾総統選挙を見物するためである。

 2020年1月10日、福岡空港から台北桃園国際空港に降り立ったとき、電光掲示板に大きく「武漢」という表示があった。中国国内で奇妙な肺炎が流行していて、「とうとう最初の死者が出た」というニュースが流れていたのを覚えている。

 その日の桃園空港はごったがえしていた。台湾総統選挙では、海外からの不在者投票はできず、有権者は戸籍のある出身地に戻って投票しなければならない。それ故、投票日はさながら「民族大移動」となる。入国審査の長い行列に並びながら、「武漢の肺炎はまだ深刻ではないのかな」と感じたものである。

 しかし、野嶋剛氏の『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 (扶桑社新書)によれば、筆者が台湾に到着した10日前から政府の対応は始まっていたという。大みそかの19年12月31日午前3時。台湾の疾病管制署(CDC)の副所長が、ネット上で武漢市衛生健康委員会の通達に気付いて異変を察知する。緊急リポートを提出すると、当日の午後には緊急閣僚会議が招集された。即日、国民への注意喚起が行われ、武漢発台湾行きの航空機では検疫が行われた。年末年始、しかも総統選挙の直前にもかかわらず、台湾当局の動きは早かった。