管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

仕事の遅い部下に「あれ、どうなってる?」と聞く前に、リーダーが自問すべきこととは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「あれ、どうなってる?」と
管理職が聞いてはならない理由

「あれ、どうなってる?」

 部下にこう尋ねた経験のない管理職はいないでしょう。

 部下に任せた仕事について、いつまでたってもアウトプットが示されないばかりか、進捗報告もない……。それでイライラしたり、不安になったりして、「あれ、どうなってる?」と尋ねるわけです。

 こういう場面では、たいていの管理職はこう思っているはずです。「まったく手がかかる。あのくらいの仕事は3日もあればできるはずだし、間に合わないならそう報告してくるのが当然だろ……」。そして、心の中で、その部下に対する評価を下げているのです。

 もちろん、私にもそういう経験があります。

 しかし、経験を積むうちに、これは管理職にとって非常に危険なことだと考えるようになりました。

 なぜなら、そのような状況に陥ったのは、部下に仕事を頼むときに、いつまでに、どのくらいの精度のアウトプットがほしいのかといった情報を、ちゃんと伝えられていない可能性が高いからです。

 にもかかわらず、一方的に部下に対する心証を悪化させているならば、その部下にとっては理不尽そのもの。イライラした様子で「あれどうなってる?」などと聞かれれば、誰だって内心で反発を覚えるものです。そのようなことを繰り返しているようでは、部下との「信頼関係」を築くことなどできないと気づいたのです。

 そして、「あれ、どうなってる?」と言いたくなったり、「いつになったらできるんだ?」「どうして報告してこないんだ?」と不信感を感じたりしたときには、それを部下にぶつけてしまう前に、まず自分がちゃんと相手に伝えられているかを確認することを心がけるようになりました。

仕事の遅い部下に「あれ、どうなってる?」と聞く前に、リーダーが自問すべきこととは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。