自分とメンバーとの間に
「ギャップ」があることを忘れない

 怖いのは、管理職は往々にして、自分と部下(特に若手)の「経験」と「意識」の差に鈍感であることです。

 ほとんどの管理職は、一定のビジネス経験を積んでいますから、「この仕事なら、1日もあればできるだろう」といった感覚をもっています。だから、部下に対して、ついつい「(難しい仕事じゃないから)“なるはや”で頼むわ~」などというあやふやな頼み方をしてしまうのです。

 ところが、経験の少ない若い部下の多くは、「なるはや」という言葉を額面どおりに受け取ります。それに、仕事を頼まれたときには、必ず「いつまでに、どの程度の精度で仕上げるのか?」という仕事の要件を確認する習慣も身についていないでしょう。

 その結果、「“なるはや”ということは、そんなに急いではないんだろう。今やりかけている仕事を終えてから、着手すればいいかな」と、上司に確認することなく自分で判断してしまいます。この時点で、すでに管理職と部下の認識に大きなズレが生じてしまうわけです。これでは、仕事がうまくいくはずがありません。

 ここで悪いのは部下ではなく、明らかに管理職です。

 自分と部下との間に「ギャップ」があることを認識もせず、自分の感覚であやふやなコミュニケーションを取るのが悪いのです。そもそも、自分と全く同じ感覚をもっている人などどこにもいません。だから、仕事上のコミュニケーションを「あうんの呼吸」で行うのは、単なる甘え。間違いのもとであり、不信を生み出すだけです。特に管理職は、「仕事の要件」をちゃんと言語化して伝える努力を怠ってはならないのです。

 部下に仕事を頼むときには、「仕事の締め切り(期限)」「仕事の精度」「中間報告のタイミング」の3点は、最低でも明確に伝えなければなりません。もちろん、一方的に伝えるのではなく、相手が抱えている仕事の状況も確認したうえで、必要であれば調整するのは言うまでもありません。

 特に、「中間報告のタイミング」を部下と共有するのを忘れるケースが多いので、注意が必要です。

 私も経験がありますが、部下が締め切り直前にアウトプットをもってきたところ、こちらの意図とはかけ離れたものになっていたときにはどうしようもないからです。結局、私がその仕事を引き取って、徹夜で仕上げたことも何度かありました。

 そして、これがさらに問題を生み出します。管理職である私が“尻拭い”をするのは当たり前のことかもしれませんが、その結果、その部下は「最終的には上司がカバーしてくれるから」という理由で、仕事の精度をあげる努力をしなくなることがあるからです。結局のところ、部下の成長を阻害する結果を招いてしまうということです。

 ですから、必ず「中間報告のタイミング」を部下と共有したうえで、仕事の方向性が間違っていないかをチェックするプロセスを踏むべきです。そのためには、仕事を頼む段階で、それを明確に言語化して伝えなければならないのです。

リモート環境下でさらに重要になる
管理職の「言語化」能力

「言語化」の重要性は、リモート環境下ではさらに高まります。

 同じ空間で働いているときには、管理職の「言語化」が多少足りなくても、わからないことや判断に迷うことがあれば、管理職に確認に行ったり、ベテランの先輩に相談することができましたが、リモート環境下では、そうしたコミュニケーションがやりにくくなるからです。

 ですから、リモート環境下では、部下に仕事を依頼する段階で、「仕事の要件」をかなり精度高く伝える必要があります。

 例えば、役員会にかけるプレゼン資料の作成を部下に頼むとしましょう。

 このような場合には、意思決定に関わる役員たちに伝える情報の取捨選択をはじめ、つくるべきプレゼン資料のイメージを、かなり詳細まで部下と共有する必要があります。

 ところが、管理職にとっても、あらかじめプレゼン資料の詳細までをイメージするのは難しいものです。

 そのため、「社長は絶対にAとBとCの情報がなければGOサインを出さないだろうから、その三つのデータは揃えてください。でも、あの役員はDとかEの情報も要求するかもしれないな……。それに、FとかGの情報を求める役員も出てくるかもしれないしな……。うーん、まぁ、備えあれば憂いなしだから、一応、Zまで用意しておいてもらっていいかな」などというあやふやな話をしてしまうことがあります。

 これでは、仕事を頼まれた部下は疲弊するばかりです。

 膨大な量のデータを収集して、整理して、それをスライドに落とし込んでいく。その作業を、「本当にこんな情報いるのかな?」と疑心暗鬼になりながら、自宅でひとりコツコツとやり続けるのは、ひどく苦痛なことであるはずです。

 しかも、プレゼンが終わってみれば、「Cまででよかった」ということがわかったりすると目も当てられません。その部下は、適当な判断で、過重な仕事を押し付けた上司に対して、強い「不信感」を覚えるに違いありません。

 そのような事態は絶対に避ける必要があります。

 そのためには、部下に仕事を頼むときに、しっかりと「言語化」することを習慣化するほかありません。「言語化」の重要性を認識して、しっかりと訓練さえ積めば、誰にでもできるようになります。そのとき、部下との信頼関係はさらに厚くなっているに違いありません(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。