シリーズ累計79万部を突破した『伝え方が9割』の著者であり、雑誌やテレビなどメディアに引っ張りだこの佐々木圭一さんと、営業手帳のNo.1『和田裕美の営業手帳』の和田さんの対談もいよいよ後半戦へ。コミュニケーションのプロ同士が、「伝え方」について熱く語ります。(取材・構成/両角晴香 撮影/宇佐見利明)

情報量は10年前の530倍に

「婚活しない美女」なんてもったいない!和田裕美(わだ・ひろみ)
京都府生まれ。作家、営業コンサルタント。人材育成会社「和田裕美事務所」代表。小学生のときから通知表に「もっと積極的にお友だちとお話ししましょう」と書かれ続けたほど引っ込み思案な性格にもかかわらず、上京後は外資系企業の営業職に就く。当初はおどおどして相手の目を見て会話することもままならず、長い間つらく厳しい下積み時代が続いたが、独自の「ファン作り」営業スタイルを構築し、試行錯誤を重ね、徐々にプレゼンしたお客様の98%から契約をもらうまでになる。それによって日本でトップ、世界142ヵ国中2位の成績を収めた。その経験から「考え方」と「行動」で運命はいくらでも変えられるのだと実感し、自分が行っていた思考パターンを「陽転思考」として確立する。執筆活動の他、営業・コミュニケーション・モチベーションアップのための講演、セミナーを国内外で展開している。女性ビジネス書の先駆けとして大きな反響を呼んだ『世界No.2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』(ダイヤモンド社)がベストセラーになる。ほかに『人生を好転させる「新・陽転思考」』(ポプラ社)、『和田裕美の人に好かれる話し方』(大和書房)など著書多数。最新著作は『成約率98%の秘訣』(かんき出版)。

和田 私は営業畑の人間なので、基本的に「売れなきゃ意味がない」と思っています。でも人によっては、「オレのものづくりは素晴らしい! だからたとえ売れなくても満足だ」なんてことを言う人がいるでしょう?

佐々木 いやあ、もったいないですよね。でも、そういうケースって世の中にたくさんあると思います。特に日本の伝統工芸は、世界唯一の技術だったりして、欧米人に見せると大絶賛されるケースが多々ありますけど、「伝える技術」がないから、そもそも知ってもらえないという。だから、そういう製品のことを「婚活しない美女」と言っているのです。

和田 なんですか? ユニークな表現ですね。

佐々木 つまり、美女なのでモノはすごくいいのですよ。でも婚活しないから売れないという意味です。

和田 おもしろい!

佐々木 「伝える技術」がなくて情報が届かないようでは、職人さんが亡くなってしまったと同時に技術ごと消滅してしまうことになります。

和田 後に続く人たちが伝える技術を身につけて、営業活動に励んでくれるといいのですが……

佐々木 しないでしょうね。それが本質ではないと、彼らは思っていますので。

和田 それって、「物や技術さえ本物であれば、言葉をこねくりまわさなくてもいい」みたいな感覚ですか?

佐々木 良いものづくりさえしていれば、世間が認めてくれた時代がかつては確実にあったのです。

和田 え、いつですか?

佐々木 ネットが出現するまでかな。それまでは、「背中で語る」という日本語にあるように、技術を持っている人は、それだけで世の中がちゃんと「背中を読んで」、認めてくれる文化がありました。けれど、ネットやSNSの普及により10年前に比べて今は情報量が530倍に増幅していると言われています。昔よりも530倍情報が入ってくるってということは、ほとんどのものをスルーしているのと同じですよね。情報がガンガン流れてくるのだから、僕たちは「要らない要らない……」とできるだけ排除しようとします。そんな状態で、伝える努力をしていない物が目にとまるわけがありません。

和田 ということは、伝え方次第では、いい物が世に出回らなくて、そこそこの物が出回る可能性もあるということでしょうか?

佐々木 いまは様々な技術が成熟しているので、世の中にある物は大抵いい物なんです。だとすればなおのこと、魅力がちゃんと伝われば売れるんですよ。物がいいのは、ある意味当たり前。それを伝えられる人と伝えられない人で、とんでもない差がでてしまっているのが、いまという時代だと思います。