
佐藤直樹
生徒の人権を無視するような“ブラック校則”が根強く残るのは、日本では校則は「世間のルール」が反映され「法のルール(規則)」として位置付けられていないからだ。国民民主党が校則の制定や見直しで生徒らの意見が反映されるよう法改正を提案しているのは注目だ。

部下へのパワハラなどが問題となり議会の不信任決議を受けた斎藤元彦兵庫県知事の出直し選挙での“予想外の勝利”にはSNSによる情報拡散の威力が改めて指摘されている。だがそれだけでなく、斎藤氏の勝利には「公務員たたき」や「社会の世間化」という日本社会独特の要因がからんでいる。

自民党総裁選でも議論になった「選択的夫婦別姓」だが、30年近く前から導入がいわれながら実現しないできた。その背景には「世間」の同調圧力の異様な強さと女性蔑視の根深さがある。導入に前向きな発言をしていた石破新首相だが、実現はなお見通せない。

日本ではスーパーなどのレジで椅子がなく従業員が立ったまま接客するが、これは世界では珍しいものだ。「お客様は神様」という独特の消費文化による過剰サービスと接客態度への過剰期待、権利や人権意識が希薄といった“日本社会”の異質さを反映する。

スーパーや小売りなどの労働組合の調査では、働く人の7割が悪質クレーマーからの迷惑行為を経験しているが、鉄道やバスの運転手のサングラス着用でもクレームが出て企業側が対応に苦慮している。こうした不条理なカスタマーハラスメントは、日本独特の「世間のルール」が反映している。

日本では100万人当たりの脳死者の臓器提供者数が欧米諸国の50分の1から10分の1と少ない。人は死んでも現世にとどまるという死生観や相互の「お返し」ルールなど、日本の社会風土に深く根ざした考え方や慣習が影響しており、脳死移植が欧米並みに増えることは今後も期待薄だ。

「ジャニーズ性加害問題」を告発する被害者が逆にネットで誹謗中傷などの攻撃を受けるのは、SNSの匿名率が75%と世界でダントツに高いことやその背景にある同調圧力の強さなど、日本社会特有の原因がある。

イギリスの慈善団体が毎年公表する「人助けランキング」で日本は世界118位と下から2番目。背景には顔見知りの人には親切でも知らない人のことは無関心で距離を置く日本特有の二重構造がある。

若者の迷惑動画や首相秘書官の差別発言に共通するのは「身内」への承認欲求や支持獲得が優先され「社会」が意識から抜け落ちていることだ。これでは問題が起きても変革が進まず閉塞感が充満する社会になりかねない。

政府は「ウイズコロナ」で屋外での原則マスク着用不要を掲げるが、多くの人が外出の際もマスクを外さないのは、周囲の同調圧力や視線にさらされない安心感を得るなど、日本人が「世間」を過剰に意識し「世間のルール」に縛られていることがある。

安倍元首相の国葬は法的根拠も曖昧なまま行われそうだ。日本では「社会」と仲間ウチだけが意識された「世間」が混在するが、国葬は「世間のルール」が優先された典型だ。弔意の表明でも「世間」の同調圧力が懸念される。

知床遊覧船事故でも繰り返された“土下座謝罪”がなくならないのは、法的な責任とは別に「世間」への謝罪が必要だという意識や日本人の自己肯定感が低いなど日本特有の理由がある。

秋篠宮家の眞子さまと結婚した小室圭さんへのバッシングがいまだ止まらないのは、「個人」意識が弱く「自分は自分、他人は他人」という気持ちにならず、「家意識」にとらわれる日本人特有のメンタリティーがある。

日本特有の同調圧力の強さはコロナ禍ではプラスに働いた面があるが、独創性や多様な発想が生きるポスト工業経済では成長の足かせだ。職場などで闊達(かったつ)な議論ができる取り組みを始めることだ。

先進国では日本と米国が数少ない「死刑存置国」だが、米国でもバイデン政権で変化が見られる。日本では死刑制度への支持が厳罰化の流れでむしろ強まっており世界と逆向きの国になっている。

ワクチン接種の進捗(しんちょく)とともにワクチンハラスメントが目立ってきたが、日本は「他人迷惑をかけるな」といった欧米にはない「世間のルール」がホンネの世界で機能し強い同調圧力が働く社会だからだ。

世界経済フォーラムの男女格差報告書で日本は今年も下位だが、男女差別が見えにくいのは、日本人特有の社会観である「世間」のなかに「身分制のルール」が組み込まれているからだ。

新型コロナウイルス感染防止で入院や隔離など拒否する人に対して罰則を導入するのは、感染者差別を助長する恐れがある。日本社会特有の同調圧力の強さや「ケガレの意識」などが背景にある。
