ビジネスリーダーの武器は言葉だ。国内最強の経営者のひとり孫正義氏も、強烈な言葉で社員を動かし、社会を動かしてきた。なぜ、彼の言葉には、あれだけのパワーが備わるのか?
ベストセラー『社内プレゼンの資料作成術』の著者で、ソフトバンクで孫氏の「右腕」として活躍した前田鎌利氏と、神田昌典氏から「今後100年歴史に刻まれる名著」と評された『最強のコピーライティングバイブル』著者の横田伊佐男氏。11月2日に「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」で初響演する2人が、その秘密に迫った。(構成:前田浩弥)

たった一言で「数億円」の経費を削減した<br />孫正義氏の「言葉力」とは?

「紙ゼロ」で億単位のコストを削減!

――前田さんは孫正義さんのもとで働かれてきましたよね。孫さんはどのようなメッセージを発してきたのですか?

たった一言で「数億円」の経費を削減した<br />孫正義氏の「言葉力」とは?前田鎌利(Kamari Maeda)
株式会社 固 代表取締役。一般社団法人 継未 代表理事。1973年 福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度年間総合第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。著者のプレゼンテーション術を実施した部署で、決裁スピードが1.5~2倍になることが実証された。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセコーポレーション、ソニー、Jリーグ、大手鉄道会社、大手銀行などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』(以上、ダイヤモンド社)がある。サイバー大学客員講師。

前田鎌利さん(以下、前田) 孫さんはひと言でいうと、「意思決定をする人」ですね。そして、常にシンプルで潔い。「やる」のひと言で、なんでも実行してしまう。
 一番印象に残っているのが、2012年の「社内業務ペーパーゼロ宣言」です。
 文字どおり「社内業務では紙を一切印刷するな」という指令ですね。
 当時はiPadが出始めた頃で、「それを全社員に支給しているのだから、すべてiPadを使いなさい。そしてプレゼンはすべてスライドで写しなさい」ということを、スパッとやったんですね。

横田伊佐男さん(以下、横田) おお、一気にやったわけですね?
 でも、ペーパーレスって、いざやるとなると、なかなか難しいものですよね。

前田 ええ、でも、そこを孫さんは徹底したんです。
 強烈なメッセージを発していましたね。
「社内業務でペーパー、コピーは一切許さん。社内で紙を使う者はもう社員ではない」と。
 すごくないですか?(笑)。
 そして、各部署に対して例えば「この部署は、今月は5枚まで」と厳しい割り当てをしました。結果として数億円の経費削減につながりました。

横田 へー!すごい!

前田 さらにすごいのは、そのコスト削減の成果を、取引している関連会社にもっていって、「ソフトバンクはここまでできたから、おたくもご協力をお願いします」と巻き込んだところなんです。
 取引先は紙ベースのところが残っていても、
「うちは紙ゼロなので協力をお願いします」
「印刷してペーパーを出せませんので、データでお渡します」
 と、巻き込んでいったのですね。
 そして、その企業のコスト削減にもつながった。
 もちろん、反発もありましよ。だけど、どんなに反発があっても、「やる」って言ったらやる。それが孫さんです。
 そして、そのために、短くて強烈な言葉を武器にされてましたね。