――では、孫さんにプレゼンするときに、前田さんが一番気をつけていたことは何ですか?
前田 とにかく「短い時間で終わらせる」ことですね。
――孫さんはせっかちな方なのですか?
前田 いえいえ、そういうわけではなく、孫さんに限らず、経営者の皆さんはとにかく忙しいですからね。
限られた会議のなかで、どれだけたくさん意思決定できるかが重要なわけです。
だから、プレゼンは長いというだけでアウトです。
「こうです。こうです。だからこうです。なのでこうします。よろしいでしょうか」
このようなテンポの速い話し方で進めて、何もなければそのまま走り抜けられるし、何か引っかかることがあれば質問が出てくる。
質問が出てきそうなことは事前にちゃんと打ち返せるようにアペンディックス(付属資料)を準備しておく。
そして、しっかりと議論をして、経営陣の疑問を解消することができれば、承認されるわけです。ここで「いい議論」をしておくことが、その後の事業実施段階での経営陣のコミットメントにも影響しますから、重要なプロセスです。
つまり、効率よく、スムーズに短時間で、かつ「質」の高い意思決定を実現するためにには、準備にある程度の労力と時間をかける必要があるということです。
――なるほど、短くて説得力のあるプレゼンにするためには、しっかり準備しておく必要があるんですね?
前田 そうですね。もちろん、できるだけ手早く、効率的につくるように工夫するのですが、
「上司が決裁するために必要な情報は何か?」
「どんな疑問をもつだろうか?」
などあらゆる観点で考え抜く必要があります。
それから、忘れてはならないのが、関係部署に対する事前のネゴシエーションですね。
「ネゴシエーション」というと、どうしても「やらしいヤツ」みたいなイメージを持たれますけど、これはとても大事なことなんです。
最も効果的なのは、事業提案をするときに、関係部署のアイデアをもらいにいくこと。30分でもブレストをすれば、提案内容もよくなるうえに、相手のコミットメントも得られる。時間がないときには、「会議でこういう話をするよ」と知らせておくだけでもいい。
それだけで、会議で決裁を得やすくなります。
それに、決裁後、事業を実施する際にも関係部署の協力を得やすい。
だから、ネゴをしない理由なんてないんですよ。
下手に「ネゴシエーションなんてやらしい」と我を張って会議の場で突っ張るよりも、よっぽど効率よく話が進みますし、いい結果が得られる。
横田 ネゴも説得力を得る方法ですよね。すごく大切なことだと思います。
今、とくに大企業はM&Aの連続で、「同じ会社」のなかに「違う会社」がたくさんあるような状況が多く生まれています。
だからこそ、前田さんのようなネゴシエーションの手法はとても大事だと思います。