――「不思議な語り口」とは?
横田 決算説明会ですから、聞きに来ている人は、
「今期の業績、どうだったの?ここがちょっと悪かったんじゃないの?」
と、なかば追及するような気持ちでいる。そこへ「今日みなさんに覚えて帰ってほしいのは、ソフトバンクは金の卵を産むガチョウだということです」とくる。
これは、不思議なことですよ。
でも、こっちは、なんだか拍子抜けして、そのまま最後までその説明を聞いてしまいますよね。そして「なるほどな……」などと納得してしまう。見事だなと感じました。
前田 その感じ、わかります。
ただ、孫さんは、はぐらかそうというような意図はないですね。
自分が本当に大切だと思っていることを、相手に伝わるようにプレゼンする。そこには、本当の「念(おも)い」があるから、プレゼンにも熱がこもる。
「金の卵を産むガチョウ」などという記憶に残るフレーズも生まれる。
そして、聞く人を納得させてしまうんでしょうね。その「念い」の強さは、孫さんの卓越した「伝え方」の根源だと思います。
――前田さんのプレゼンも、きっと孫さんの影響を受けていらっしゃるんでしょうね。孫さんにプレゼンするときに、意識したことは何でしょうか?
前田 特段、凝ったことや奇をてらうようなことは意識しませんでした。
社内のプレゼンで妙に凝っても、「そんなことはいいから、早く結論を」と言われてしまうのがオチですから(笑)。
社内の決裁をとるのに「金の卵を産むガチョウ」といった面白いフレーズは必要ないと思うんです。
孫さんだって、投資家という「社外の人」を相手にするからこそ、「金の卵を産むガチョウ」などというフレーズを編み出すわけで、社内ではもっと単刀直入というか……。
横田 たしかにそうですよね(笑)。
前田 そこに「社外プレゼン」と「社内プレゼン」の違いがあるんです。
孫さんが金の卵を産むガチョウの話をしたのも、「外部の方向けに、2時間ほどのお話しをする」という前提があり、「それならば、興味をもち続けて長い話を聞いていただけるように、キャッチ―なキーワードを最初に持ってこよう」と組み立てたと思うんです。
社内で、通常の業務の話をするときには、孫さんもそのような込み入ったことはやりませんでした。