こうした視点も溝口氏が民間出身ゆえかもしれない。いわゆるマーケットインの発想も自治体に欠けている要素だ。地方の名産品作りが失敗するのは、市場のない場所で商品作りをするからである。

展示会などにも《阿波ふうど》として積極的にブースを出している

 実際、徳島では一部、ザーサイの栽培がはじまっている。中華料理の漬物のザーサイはアブラナ科の野菜で、その球茎の部分を干して塩漬けにし、香辛料を加えて熟成させる。水天宮にある老舗、遠忠食品が販売している国産ザーサイが昨今の国産需要に伴う原材料不足で困っていたところを溝口氏が繋いだ形だ。これなど出口がある提案の好例である。

「前の会社に33年間いました。ありがたかったのはほとんどの期間を常にお客様と接する部門にかかわらせていただいたことです。百貨店のなかでもお客様の意見をただ聞くのではなく、要望を探ることに熱心だったので、それは今、役に立っているかな、とは思います」

 野菜や果物を販売する会社と取引を開始し、都内の百貨店でテスト的な販売もはじまっている。時には溝口氏は自ら店頭に立って、お客さんと接する。展示会にも阿波ふうどとしてブースを出すなど様々なプロジェクトが進行する多忙な生活だが、本人は至って謙虚だ。

 その原点には百貨店時代の経験がある。ある日、評判のいいスーパーの経営者と会った時のこと。「溝口さんもサラリーマンでこういう仕事をするのは大変ですね」と言われ、はじめは意味がわからなかった、という。

「小さなメーカーさんや生産者の方はそれこそ命がけで商品をつくっていますよね。そうした人たちと付き合うには覚悟がいる、ということを仰ってくれたんだと思います」

特産のすだち、ゆずを使った製品が並ぶ

 自分たちは納豆一つ、豆腐一丁つくれない。でも、作り手の一生懸命な想いを伝えることはできる。取引先や顧客との付き合いのなかで溝口氏は仕事を学んでいった。そうした現場の経験が今回のプロジェクトには生かされている。

「自分たちは産地と消費地を繋ぐ通訳ガイドだと思っているんです。立場や商習慣の違いを受け止めて『これはこういうことですよね』『これを実現するにはこうしたほうがいいですよ』と提案し、お客様には『こんなところで育って、こんなところでつくっているんですよ』と説明できるような」

──複数の産地で同じ商品があったとして、それでもバイヤーに選んでもらう、あるいは消費者に手にとってもらうためにはなにが必要なのでしょうか。

「地方ではどの村を訪れても『うちの鮎が一番おいしい』って皆さん仰いますよね(笑)。でも、今はある意味、物が溢れている時代じゃないですか。お客様は物以上の価値を求めているので、手に取っていただくためには共感というか『好きになってもらえる』ことが必要だと思います」