
仕事の同僚関係でも、パートナー関係でも、友人関係でも、最初はあんなに熱意や思いやりがあったのに、今はその当時のようにふるまうことが難しい。そんな経験は多かれ少なかれ誰にでもあるだろう。ものごとをありのままとらえようと試みる「現象学」を専門とする哲学者が、「やさしいがつづかない」メカニズムを解き明かす。 ※本稿は、稲垣諭『やさしいがつづかない』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。
誰かを憎まないでいられる
それだけでもすごいこと
憎しみや怒りといった暗い感情は、多くの人にとって容易に、自動的に、意図せず生じてしまいます。とりわけ自分ではコントロールできない他人や出来事に翻弄されると、暗い感情があなたの心を一瞬で覆ってしまうこともあるでしょう。
そしてこの憎しみや怒りからは、他人に危害を加えたい、他人を陥れたいという「悪意(spite)」が生じます。そしてこの悪意こそ、やさしいの反対のものです。それは誰かに対して意地の悪いことをしたいという暗い欲望です。
私たちは、憎しみや怒りをつづかせないようにすることにも気をつけなければなりません。憎しみや怒りは、悪意に養分を与え、それを増幅させるものですから、警戒しなければならないのです。
あなたがもし、ある人物や物事に対して長くつづく憎しみや怒りを、まったく抱いていないとすれば、それだけで、あなたがやさしい人であることが証明されているともいえます。
なぜなら憎しみや怒りは、あなたにコントロール権を手放すことを難しくさせるからです。それらはむしろ、誰かのコントロール権を奪おうとする行動を促進させます。
ですから誰かを憎まないでいられるということは、実はそれだけでもすごいことなのです。