
単発・短時間で手軽に働けるスポットワーク(いわゆるスキマバイト)市場に法の目――。ついに、厚生労働省が急成長するスポットワーク市場に対し、労働者保護の観点から、初の包括的な対応に乗り出した。今回、厚労省が公表したリーフレットには、市場の根幹を揺るがす3つの重要な変更ポイントが盛り込まれている。対応を誤れば、スポットワーク仲介事業者や利用する企業にとって、法的責任や訴訟リスクが現実のものとなりかねない。特集『スキマバイト 光と影』の#1では、見直し必須の三大ポイントを解説する。(ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)
登録者数3200万人の急成長市場
トラブル増加に厚労省が初めてのメス
7月4日、厚生労働省がようやく重い腰を上げた。短時間・単発で働く「スポットワーク(いわゆるスキマバイト)」に関する留意事項をリーフレットに取りまとめ、事業者団体であるスポットワーク協会などを通じて、労務管理ルールの周知徹底に乗り出した。行政がスポットワーク事業に公式に“対応措置”を採るのは異例のことだ。
スポットワークには様々な形態があるが、今回対象となったのは、スマートフォンの雇用仲介アプリを使って労働者と企業をマッチングする形式のスポットワーク。代表的な例として、「タイミー」や「シェアフル」「メルカリ ハロ」といったサービスが知られている。
スキマ時間に即日で働けるという労働者側のニーズと、慢性的な人手不足に対応したいという企業側のニーズが合致し、スポットワーク市場は急成長した。スポットワーク協会の調査によれば、働き手として登録する会員数は約3200万人に達している。これは1年前の2倍以上の規模に相当する。
従来のアルバイトや派遣労働のように面接や履歴書の提出といった採用プロセスを必要とせず、スマホ一つで即座に仕事を見つけ、即座に働ける。人材サービス業界に「プラットフォーマー」として参入したスポットワークは、この即時性に着目し、従来の人材サービスビジネスでは難しかった「超短時間労働」市場を掘り起こしたのだ。
しかし、マーケットが急成長する一方で、事業者側のルール解釈や運用体制の構築が必ずしも追いついていないという課題も浮き彫りになっていた。実際に、労働当局に賃金不払いなどのトラブルの情報が寄せられていた。そうした実態に対し、ようやく厚労省が“働き手の保護”を掲げ対応に乗り出した形だ。
爆発的な拡大を遂げてきた「スポットワーク市場」に、厚労省がメスを入れた。今回の措置は、スポットワーク仲介事業者やスポットワークを活用する企業に対して、労務管理や運用方針の抜本的な見直しを迫る内容だ。
厚労省からの「協力依頼」を受けて、スポットワーク協会や業界最大手のタイミーは、依頼が行われた同日の7月4日、サービス運営方針の見直しに着手する方針を明らかにした。
この動きは、労務トラブル対応を目的として、厚労省とスポットワーク協会の間で水面下の調整が進められていた、いわば両者による“出来レース”と言えるもの。とはいえ、厚労省が公表したリーフレットには、市場の根幹を揺るがす三つの重要な変更点が盛り込まれている。
次ページでは、その三つの変更点について解き明かす。その対応によっては、タイミーをはじめとするスポットワーク仲介事業者やそのサービスを利用する企業にとって、法的な責任や訴訟リスクが顕在化しかねない。果たして、三大ポイントとは何かーー。