
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第74回(2025年7月10日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
『あんぱん』の登場人物は
みんなぐずぐずしている
「ミス高知」はのぶ(今田美桜)みたい。メイコ(原菜乃華)も言う。見た目は似ていないが、「おっちょこちょいの向こう見ず」なところが似ている。のぶ自身、そう自覚している。
向こう見ずで質屋の番頭にぶつけたバッグが壊れて、修繕するのぶ。そういえば、嵩が買ったあの赤いバッグ、どうしたでしょうね。
東京へ取材に行くにあたり、のぶはカメラを持っていくことにした。
「次郎さんと一緒に行きたいなと思って」
ことさら描写がなくても亡くなった次郎(中島歩)のことを気にしていないわけではないのだ。カメラをそんなに使っていないのも、次郎を思い出してしまうからかもしれない。でも取材していてカメラマンの仕事を見ていて、カメラを使って仕事がしたくなってきたのかも。そういうためらいを描くのも悪くない。
『あんぱん』の登場人物はみんなぐずぐずしている。メイコはメイコで、健太郎(高橋文哉)のことを思い切れずにいる。女として見られていないことを気に病んでいる。なにしろ、かわいいけれどオス犬の「のらくろ」扱いだから。
健太郎に思いが通じて結婚して幸せになりたいとメイコは夢見るが、のぶは「幸せになるかどうかより この人とやったら不幸になってもえい。それが本当に好きやということやないろうか」と考えている。
おっちょこちょいの向こう見ずで、どこか子どもっぽさが抜けないのぶが、そこのところだけは酸いも甘いも噛み分けたような妙に大人びた顔を見せる。ドキリ、これが寡婦の影というものか。