日本企業における人材育成の三種の神器は「異動」、「OJT」、そして「教育・研修」である。これらに各自による「自己研鑽」が加わる。前二者は、経験を積み重ねるなかから実践を通じての「体験知」を獲得することを目指すのに対して、後者の「教育・研修」と「自己研鑽」は、実践の場からある程度距離をおき、実践に活かせる知識や問題解決方法といった学習知の獲得を志向するものである。
スポーツやゲームの世界では
体験知と学習知を上手に組み合わせている
どちらか一方だけの知識で十分かといえば、そうではないと多くの人は答えるだろう。しかし、現実には、わが国だけに限らずビジネスの世界では体験知至上主義とまではいわないが、体験知の重要性が強調される傾向が強い。その結果として、読書や教育・研修に代表されるOff the job trainingを通じての学習知が、相対的に軽んぜられているように思われる。
しかし、ビジネス以外の世界では、体験知と学習知を上手に組み合わせて活用できる者が、高い業績をあげているように思われる。
ダンプカー一杯のボールを打つだけでは、上手なゴルファーにはなれない。考えながら練習し、練習の結果を見てさらに練習をする。そのときには、上手な人を観察することによってヒントを得たり(これは、OJTの典型例である)、著名な教則本を読んで得た学習知も活用される。不思議なことは、仕事では経験至上主義で高い成果を上げているビジネスパーソンが、ゴルフ上達のためには学習知もあわせて活用している事実である。
囲碁でも対局を通じての体験知は、対局後の検討を通じて知識の一般化が図られるし、多数の棋力を高める努力が行われる。特定局面での最善手のセットである定石や、石の生き死にを的確に判断できる能力を涵養するための詰碁の学習も大切である。英語では、定石をセオリーと翻訳する。つまり、対局という実践のためには、定石という理論に基づく知識が不可欠なのである。