資産としての
評判の役割

 売り手は財の品質についての多くの情報を持っているが、多くの場合、買い手(消費者)は必ずしも品質を判別できるとは限らない。取引に際して、買い手が良質品と低質品とを区別できない場合、第34回のコラムで述べたように、低質品を良質品と偽って販売する「不正直な」売り手によって、良質品を市場で取引することは困難になる。

 この状況で「正直な」売り手は、買い手の信用を得るために、さまざまなコストを負担して評判の確立に務める。そして、一度評判が確立されると、彼は評判にもとづいて高い価格を設定できるようになる。このように、評判を確立するためのコストは、将来の利潤という形で長期的に回収されるのである。

 この状況で、評判は、将来における正直な取引からの利益をもたらすという意味で、売り手にとっての資産となる。そして、不正直な取引をして評判が低くなれば、価値ある資産を失うことになる。それゆえ、評判の資産としての価値が高ければ、不正直な取引を行うことの機会費用も多くなり、そのような取引は行われなくなる。

コースの言う
「企業の本質」

 実際、市場が円滑に機能するためには、評判にもとづく信用や不正直な売り手を罰する法律などの制度的な基盤が不可欠であり、これら無くしては、市場での取引には多大な費用がかかることになる。

 この点に関連して、1991年にノーベル賞を受賞したコース(R. H. Coase)は、受賞の対象となった論文の1つである「企業の本質(The Nature of the Firm)」の中で、次のように論じている。