一同は席に座り、部屋付きの店員が淹れてくれた鉄観音茶を啜りながら、くつろいで料理が出て来るのを待っていた。

「こんな贅沢は、日本ではなかなか味わえませんよねえ」

 岩本は相変わらず胡麻擂りに懸命だ。

「いやあ、大連は初めてなんだが、本当に良い街だねえ。それにしても、伊藤さんは中国語が堪能ですなあ」

 宮崎が鷹揚に話し、横で木村が頷いている。

「長年こちらで暮らしていますから、否応なしに覚えました」

「いつもは上海にいらっしゃるんですか?」

 初顔合わせの時に渡された、『上海隆栄実業有限公司、董事長・総経理』と記された隆嗣の名刺を思い起こして宮崎が問う。

「ええ。事務所は上海に開いておりますが、月の半分はあちこち飛び回っています。なにせ、中国は広いですからね」

「一人で海外に出て事業を起こすなんてバイタリティーは、我々サラリーマンには想像も出来ないことだ。うらやましい」

 宮崎が、大企業のエリートコースに乗っているサラリーマンだからこそ言える余裕の賞賛を隆嗣に向ける。

「いえいえ、それもこれも16年前に三栄木材さんに拾って頂いて、中国で仕事をさせてもらったお蔭です」

 隆嗣は冷静に岩本と三栄木材を持ち上げることを忘れない。岩本がすぐに乗ってきた。

「伊藤さんは昔、うちの嘱託社員として中国に駐在していたんですよ。広葉樹の集成材を作ろうということになりまして、上海の工場と提携して始めたんです」

「ほお、16年前にですか。中国がこれほど経済発展する前のことですな、さすが三栄木材さんは先見の目があったんですね」

 宮崎の褒め言葉を頂戴して、岩本が自慢げな顔つきになる。

 確かに沿岸部の都市はこの10年ほどで別世界に変貌しているが、内陸部をはじめ中国にはまだまだ問題が山積している。しかし、そのような提言はこの場にはそぐわないと判じて、隆嗣は愛想笑いを続けていた。