扉が開いて幾つもの皿に盛られた冷菜が最初に運び込まれてきた。清義が尋ねる。
「ハーシェンマ?」
「何をお飲みになられますか?」
隆嗣が通訳すると、宮崎が応じた。
「そうだねえ、せっかくの中華料理だから紹興酒でもお願いしようかな。いや、しかし最初はやっぱりビールかな」
「それでは、大連のビールはいかがです? 黒獅ビールという地元のビールがありますよ」
「ほう、大連のビールですか。それはいい」
宴が始まった。円卓の上に置かれているガラスの回転盤に料理が所狭しと並び、アルコールも回って箸が遠慮なく進むようになると、それにつれて皆の口も滑らかになった。
「それにしても、劉さんはたいしたものですなあ」
紹興酒のグラスを口に運びながら宮崎が話すと、木村も相槌を打つ。
「そうですねえ、私と大して年齢が変わらないのに、3つの会社の経営者だ。それも、みんな大きくて儲かっている」
隆嗣が通訳してやり、折り返し清義の言葉を伝える。
「たまたま時流に乗っただけのこと。今の中国では、私なんか大した成功ではありません。そう言っていますよ」
「それにしても、その若さで成功したというのがすごい。失礼ですが、劉さんは大学は出られているんですか?」
岩本も話に加わる。
「いいえ、彼は高卒です。大学に合格していましたが、それは大連の経済開放が始まった頃で、せっかくビジネスチャンスが目の前に転がっているのに、大学で4年間を無駄に過ごすのはもったいないと、進学せずに実業の世界へ飛び込んだんです」
「すごいなあ、徒手空拳で高卒から実業家として成功したんですか」
宮崎が感嘆の声を上げる。
「でも、まったくの徒手空拳というわけではないんですよ。確かに彼の度胸と才覚が成功をもたらしたんでしょうが、実は、彼の叔父さんというのが当時の中国工商銀行の大連支店長だったらしくて、色んな人脈と資金の裏付けがあったからこそ、若くして事業を手掛けることが出来たんです。最初は経済開発区の整備分譲に絡んで巨額の利益を手にし、それから彼の躍進が始まったというわけです」