北朝鮮は、化学兵器の使用を認めないであろう。金正男の殺害を否定し、心臓発作であると言い張っている。また、犯人を隠ぺいして捜査を妨害し、確証を取らせないようにし、罪を2人の外国人女性に被せようとしている。

 しかし、マレーシア警察によって金正男の遺体の目の粘膜と顔に付着した成分を分析してVXを検出した。VXを調達できる組織が関与した可能性が濃厚であり、国外から持ち込まれた可能性が高いとしている。

 マレーシア警察は、4人の主犯格は既に北朝鮮に逃亡しているが、これ以外にも北朝鮮大使館の2等書記官と高麗航空職員など3名の容疑者がいるとして捜査している。VXは北朝鮮大使館の2等書記官によって外交行嚢(本国と大使館との間で文書をやり取りする袋で、接受国はこれを開封できない)を使って持ち込まれたのではないか、と疑っているようである。北朝鮮の非協力によってマレーシアの捜査は難航している。しかし、これだけの状況証拠があれば北朝鮮の犯行を疑わない訳にはいかない。

 マレーシアは北朝鮮の姜哲(カン・チョル)大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(国外追放)」にした。北朝鮮は金正男氏の殺害を認めないばかりでなく、マレーシア政府の捜査を妨害し、姜大使自身が「(マレーシア警察の捜査を)信用できない」「北朝鮮を中傷するために外部勢力と結託している」と誹謗中傷を繰り返した。ナジブ首相は「(発言は)無礼だ」として不快感を表明し、外交ルートを通じ謝罪を求めたが、北朝鮮からの返答はなかった。そうした中、4日夕刻マレーシア外務省の呼び出しにも姜大使が応じなかったことから48時間以内の国外退去が通告されたものである。

 マレーシアと北朝鮮の対立はどこまで行くのか。マレーシア警察は、金正男氏殺害の捜査に北朝鮮が非協力的であることから、周辺部分にも捜査を広げ、その結果、北朝鮮大使館の内部事情も相当わかったようである。北朝鮮大使館員は外交団リストに載る者が14人であるが、車両登録など調べたところ実際には28人おり、そうした人々は、軍事物資の非合法な輸出や、資金洗浄、諜報活動など大使館員としてふさわしくない活動に従事している可能性がある。ちなみに、問題のヒョン・グァンソン2等書記官は外交団リストには載っていない。

 国連安保理の専門家パネルによる最新の報告書によれば、昨年8月にエジプト当局が拿捕した船舶からロケット弾3万発が発見されたそうであり、アフリカ向けの航空貨物からは軍事用通信機器が押収されたが、これらには北朝鮮のフロント企業「グローコム」のラベルが貼られていたそうである。国連安保理制裁破りの密輸もマレーシアに駐在するこうした要員が仲介したのではないか。大使館がそうした不法行為に加担していれば、国交断絶も視野に入ってくるであろう。