競争力の強化が一番難しい

 今回の大震災では、東北地方に展開していたわが国の輸出製造業等のサプライチェーンも大きな痛手を受けた。これは、従来の震災には見られなかった特徴である。

 復興するためには、まずもってわが国の経済全体が上手く回らなければならないが、そのためにはこの15年間に失われた国際競争力を回復する必要がある。しかし「言うは易く行うは難し」であって、15年間に失われたものを短期間で回復することは並大抵の努力でできるものではない。不退転の決意を持って、学生は必死に勉強し企業は本業に精を出す必要があるが、1つ忘れてはならないのは、わが国で一番競争力のある都市である東京をどうするかという戦略的な視点である。

 今後の半世紀に亘って確実に繁栄が見込まれる地域は、誰が見てもまず東アジアであろう。そうなれば、ユーロ市場におけるロンドンのような金融センターがいずれは必要となる。東京は、東アジアの金融センターの候補として、シンガポールや香港、上海等のライバルに抗して果たして勝ち抜いていけるだろうか(負ければわが国全体が衰退する可能性は決して捨て切れない)。東京電力の最終処理も、東京金融市場の競争力強化の問題と切り離した文脈で論じることはできない相談だと考える。

 このような視点で考えた時、ごく仔細な問題ではあるが、東京の表玄関である成田空港のエスカレーター等の一部設備が節電を理由に止められていることは果たして長期的な国益に沿うのだろうか。海外からの客人に一抹の不安を与えることにはならないのだろうか。このようなメリハリを一切つけない一律のプロラタ方式には、大いに疑問なしとしない。まるで、鎖国時代のような発想であると思えてならない。

 被災地域の農林水産業の復興についても特区等の制度を上手く活用して思い切った集約化を図る等、競争力を格段に強化する方向が望まれる。わが国の中長期的な国際競争力の強化に資するという視座を根底に見据えて、是非とも、復興構想会議には雄大な復興のグランド・デザインを描いて欲しいと切に願うものである。仮初にも、3つの構造的な課題を棚上げして、目先の復興問題のみに焦点が当てられるようであれば、この国は、時間に追い越されて衰退の道を歩むしか他はない。

(文中、意見に係る部分は、筆者の個人的見解である)