第2の課題:財政の悪化
第2は財政の悪化である。一般会計で見ると、2011年度の当初予算の規模は92兆円であるが、税収はわずか40兆円しかない。最大の歳出項目である社会保障費(28兆円)と地方交付税交付金等(16兆円)だけでも軽く税収を上回る。そして、この背後には900兆円近い債務の山が聳えている。今年度は、これに、東日本大震災に対処するための数次にわたる補正予算が上乗せされる訳である。その規模は総額で20兆円を超えるという話もある。
家計に擬えれば、毎月の収入が40万円しかないのに92万円を費消し、しかも、900万円近い借金を抱えているに、臨時支出が20万円を超えるかも知れないという状況である。中学生レベルの算数の理解力があれば、誰が考えても、この家計は持続可能なはずがない。増税と社会保障の見直しが必要不可欠であることは、言を俟たないであろう。
この国では、増税の話題に触れると必ず2つの反論が飛んでくる。
1つは「景気が良くなれば税収も増えるので、まず景気対策を打つべきだ」というロジックである。バブル期のわが国の税収のピークは60兆円だった(60兆円を超えたのは1990年度の1回のみである)。わが国の景気が近い将来にピーク時まで回復すると考えているエコノミストはおそらく皆無であろうが、仮にピーク時に回復したとしてもなお、32兆円が不足するのである。この一事をとっても、景気が良くなればすべての問題は解決するといった類の、一見もっともらしい議論がナンセンスであることは一目瞭然であろう。
2つ目は「増税の前に政府や公務員のリストラ等やるべきことがいくらでもある」というロジックである。やるべきことは確かにいくらでもあるだろうが、それらを積み重ねて歳出が一体いくら削減できるというのか。おそらく数兆円が関の山であろう。第一、わが国の政府は、たとえば、政府部門の人件費総額で国際比較をして見れば、OECD諸国の中では群を抜いた「小さな政府」なのだ。数字とデータに基づいた冷静な議論を行えば「増税と社会保障の見直し以外の解はない」というごく当たり前の結論に誰でも行き着くはずだ。
蛇足だが、この他に「増税は財務省の陰謀だ」という思考停止の議論も、わが国では不思議と根強いことを指摘しておこう。人間の5000年の歴史は、あらゆる陰謀史観が眉つばであることを教えてはいるが。
第3の課題:競争力の低下
第3の課題は競争力の低下である。土井丈朗教授によると(財政制度等審議会2010.9.6)日本の国際競争力は20年前は世界1位であったが2010年には27位まで低下しているとのこと(96年までは常にトップ5。97年以降16位から27位の間を行ったり来たりしている)。これは、現在の世界の株価が平均してリーマン・ショック直前の2割高になっているのに対して、ひとりわが国の株価だけが2割安になっている事実とよく符合している。