南極点も北極点も「冒険の途中」
2015年1月11日、私たちのチームは南極点に到達しました。
たどり着けたことが、本当にうれしかった。残った甲斐があったと思いました。
途中で怪我をして動けなくなる可能性。
ぎりぎりしかない食料や燃料がなくなる可能性。
ありとあらゆるできない可能性を乗り越えて、「ついにやった!」という気持ちがあふれてきました。
南極点踏破はその場でやろうと思い、その場で決めたこと。
「失敗したらどんな顔をして帰ればいいだろう」と考えてもいたので、ホッとした気持ちもありました。
南極点からは再び、ツインオッター機がピックアップしてくれました。「ちょっといいな」と思っていた、かっこいいパイロットが操縦する定員19人という小さな機内で、私はゆっくりと広がる喜びを味わっていました。
2016年は、南極点到達のあと、春から夏にかけてカルステンツ・ピラミッド、エルブルース、エベレスト、デナリを次々と登頂。世界七大陸最高峰すべてを踏みしめた年となりました。
そして2017年4月には、探検家グランドスラム達成となる北極点を目指します。
北緯89度のスタート地点まで軍用機で飛び、10日から2週間かけて到達するプラン。軍用機は氷山の広い部分を探してなんとか着陸するのですが、緯度が1度変わるだけで北極点までの距離がまったく違ってしまいます。
南極点と北極点を比べた場合、北極点のほうがはるかに難易度は高いとされ、「エベレストよりもつらい」と言う人もいるそうです。
それぞれ南緯90度と北緯90度ですが、南極点は大陸の上なのに比べて、北極点は海の上です。平均気温は南極のほうが20度ほど低いとはいえ、北極は湿度が高く、じめっとした寒さ。スキーで行くのはどちらも同じですが、北極は氷山と氷山をつなげるように覆う氷の上を滑っていくのですから、氷の裂け目もあるし、氷山がぶつかり合って盛り上がっているところもたくさんあります。
もしも氷山が崩れたら、凍りそうな海を泳いで次の氷山に向かうことも想定内。ウエットスーツ着用とはいえ、なかなかにハードです。安全な客船で北極圏ツアーに行くのなら「かわいい」と思えるホッキョクグマも、一緒に泳ぐとなると「こわい動物」に変わるでしょう。
話を聞いたり本やネットで調べたりするほど、大変なことは山積みだとわかりますが、私は今、わくわくしています。
地球温暖化で環境がどんどん変わっているという北極を、この目で見て、この体で感じてみたい。「今」の地球を体験するのが、楽しみでたまりません。
出発に備えて、さらなるトレーニングも必要です。
10時間以上歩き続けられる持久力。重い荷物を引っ張っても大丈夫な足腰の筋力。心肺機能も大切です。
世界七大陸最高峰を目指していた時は、元K-1日本王者でクロスフィットトレーニングの権威であるニコラス・ペタスさんの指導を受けていましたが、今はパーソナルトレーナーの指導のもと、大学や家の近くのジムで足腰を中心とした筋トレをしています。
1人でできることもたくさんあるので、ほぼ毎日10キロのランニングと筋トレも欠かしません。かなり筋肉がつき、スクワットを300回やってもつらくないので、もっと負荷を上げていくつもりです。
また、体力が落ちていないか試すには山に行くのが一番なので、友人と「日帰り富士山登頂」なんてこともしています。
体づくりと同時に、テクニックや知識も大切です。ロープの結び方、器具の扱い方などの技術の本を読んだり、実際に練習したり。もちろん大学の勉強もあり、自分としては忙しい日々です。
トレーニングをしている最中は、もちろんつらい。
食事をしたあと、「スクワット300回!」というのを毎日続けるのはきつい。
勉強したり、原稿を書いたり、トレーニングをしたり、掃除や料理をしたり、大学生にしてはやることがけっこう多いことも確かです。
それでも、「やめよう」と思ったことは一度もありません。
種類の異なるいろいろなタスクをこなすと気分転換になりますし、誰に強制されたのでもない、すべて自分で決めてやっていることばかりです。
目標さえあれば、すべては苦であって苦ではない。
どんなに苦しくても、最終的にやり遂げたあと、最高にいい気持ちになることを、体で味わっているからくじけない。
大変であればあるほど、「目標に近づいている!」と実感できるのです。
南極点がそうであったように、北極点もきっと通過点。
私の冒険は、まだまだ途中なのですから。