菅直人財務大臣が就任時の記者会見で為替レートの水準について具体的に言及し、物議を醸した。
一般に、為替レートに限らず、首相、財務大臣を含む主要閣僚、日銀総裁など政策の責任者の立場にある人物は、為替レートや株価などの相場の水準に影響を与える発言を慎むべきだとされている。特に特定の為替レートなり株価なりに言及することに対しては批判の声が多い。これは、米国をはじめとする外国でもおおむね同じだ。
理由は、(1)市場参加者の損益に発言が直接的な影響を与えるのが余計であること、(2)市場で決まる水準以外の「正しい水準」がわからないのに市場参加者の行動に影響を与えるべきでないこと、(3)特に為替レートの場合は外国から自国に有利な相場誘導でアンフェアだと非難されかねないこと、の主に3点だろう。
筆者の記憶では、特に日銀に関しては、後で思えばバブルの立ち上がりの頃だった1986年に、日銀総裁が株価の水準について高過ぎるというニュアンスの発言を行ったことに対し、証券界から、「証券界の部外者が上げ相場に水を差すような余計なことを言うな」「株価の適正水準の判断に責任を持てるのか」という猛烈な抗議があって、これに懲りたようだ。その後、金融研究所の研究員などが「所属組織の意見ではない」と断って、たまに研究発表の中で触れることはあっても、総裁以下の幹部は相場に言及しないことが常道となったように見える。
菅大臣が仮に為替レートに影響を与えたかったとしても、異なる言い方が適切だった。筆者が菅大臣のアドバイザーなら別の言い方を進言しただろう。
しかし、経済政策の当事者が相場水準に言及することがすべていけないわけではないだろう。