わが国経済や東京金融市場の
見通しも骨太に説明せよ
世界は、第一原発の行方だけを注目しているのではない。世界第3の規模を誇るわが国経済の先行きや東京金融市場の動向にも、世界の耳目が集まっている。G8では、むろん、こうした期待にも応える必要がある。その際、必要なことは、数字を骨太に活用することである。抽象的な文句を並べるよりも、政府の最高首脳が、たとえば「大震災の影響により今年は何%GDPを押し下げるが、来年は復興需要もあり何%成長が見込める」等と直截に述べるほうが、遥かに世界や市場に与えるインパクトが強いものと思われる。
政府関係の要人で、平素からこのようなスポークスマン的な物言いをしているのは、白川日銀総裁くらいではないか。だとすれば、お寒い限りである。現在のグローバルな世界では、数字やデータを開示して率直に発信しなければ、およそ何事についても理解は得られないと心得るべきである。
また、先日政府案が固まった東京電力の処理についても、できる限り丁寧に説明すべきであろう。東京電力の処理の問題は、東京金融市場の動向と切り離しては考えられない問題だからである。
東電処理は、税金の投入ではなく、
受益者の負担が筋
東京電力の処理に係る政府案についての評価は難しい。本格的なエネルギー政策の見直しが行われるまでのつなぎ案としての位置づけや「被災者への補償をいち早く」という現実的な観点に優先順位を与えれば、ギリギリの合格点はあるかと思われる。東京電力が経営の失敗により債務超過に追い込まれたのであれば、まず、株主や銀行など投資家に負担を強いるべきであることは論を俟たないであろう。
しかし、今回、東京電力が債務超過の危機に瀕しているのは、もちろん経営の失敗がなかったとは言わないが、まずは大震災によって生じた補償問題によってである。原子力損害賠償法は、事業者の故意・過失を問わず、事故が生じた場合は、事業者に無限責任を負わせている。
このような事業者責任制度は、近代社会ではあまり例をみない特殊なものである。そうであれば、東京電力の処理問題は、被災者への補償金を(リストラ後の東京電力の負担を超えた場合)誰が負担することがよりフェアかという問題に帰結することが分かる。
私は、骨格は、政府(すなわち、税金=国民)よりもまずは受益者(すなわち、電力料金の値上げ)ではないかと考える。また、東京金融市場に混乱を引き起こさない方策があれば、投資家にも応分の負担を求めるのには決してやぶさかではない。
日本経済新聞の中外時評(「東北の受難に終止符を」2011.5.15))を読んで、なおさら、その感を強くした。小さな問題かも知れないが、火力発電に切り替えるだけでも燃料費等で兆円単位のコスト増が発生すると言われている。緊急避難的にも、受益者負担が理の当然ではないか。
(文中、意見に係る部分は、筆者の個人的見解である)