——複数のラフの中から「これ」というものを選んでもらうということですか?
松 まずは方向性を擦り合わせるという意味ですね。例えば、「優しい雰囲気」という前提があっても、優しい赤も優しい緑もあります。また、書体にしても、明朝体にもゴシック体にも優しいものがあります。モチーフを大きく配置するのか、小さく配置するのかなども。編集者の方の意図とその方向性をまずは擦り合わせる。そこが装丁の仕事の中でも一番大切な場面かもしれません。そして、方向性が固まったところからより良い形を模索していきます。
著者本人から得たイメージを形に
——なるほど。たしかに、方向性の共有から始まるというのはよくわかる気がします。さて、ここからは弊社書籍の装丁の中で印象に残っているもののお話をうかがいたいと思います。
松 もちろん、どれも思い入れがあるので難しいですね…。パッと思い浮かんだものでいいですか? まずは、和田裕美さんの『こうして私は世界No.2セールスウーマンになった』のときのお話を。
和田さんはすでにダイヤモンド社さんからも他社さんからも本を出されていたのですが、これまでの本が実践的な内容だったのに対して、今回はエピソードがより豊富な、和田さん本人をフィーチャーした、いわば自叙伝的な読み物ということでした。お話をいただいて、いろいろ考えたのですが、これはご本人にお会いするしかないと思い、編集者の方にその機会をつくっていただきました。
お会いしてお話をさせていただく中で、和田さんの、太陽のような明るさと穏やかな印象から、すぐに「色はオレンジ」というイメージが湧きました。そしてもうひとつ、「ご本人の写真をカバーに大きく入れたい」と。それまでの本には、帯に笑顔のお写真が入っていましたが、今回のテーマを表現するには、和田さんの明るいイメージに加えて、実績を残してきた方が持つある種の「強さ」も表現することが必要だと感じました。編集者の方にも意図を理解していただき、写真を撮りおろして、凛とした表情の和田さんの写真を全面に出した装丁にしました。タイトルはオレンジ色で。結果、既刊本との違いが明確になりました。
——読者の方々からもとても好評でした。
松 ありがたいですね。和田さんにも喜んでいただけてうれしかったです。
著者ご本人との対面で具現化したイメージが読者へストレートに伝わる。納得です。それにしても、ダイヤモンド社とのかかわりの始まりは、一風変わった縁だったようです。来週公開の後編では、引き続きいくつかの書籍のエピソードから「ちょっと意外な色のこだわり」等について語っていただきます。
株式会社ブックウォール代表。
1972年生まれ。京都精華大学 ビジュアルコミュニケーション学科卒業後、
ハンドレッドデザインインクに入社。ブックデザイナーを志し2000年からフリーに。
年間に手がける点数は200冊以上。ジャンル・形態を問わず個性的な書籍の「顔」を生み出している。
Twitter: @bookwall