『書籍づくりの匠』では、本作りに携わるさまざまなプロフェッショナルの方々に、ご自身のお仕事を語っていただきます。
今回登場していただくのは、ブックデザイナーの松昭教(まつ あきのり)さんです。文芸系、ビジネス系など幅広いジャンルでそれぞれ個性的な装丁を残されている松さんのデザインへの思いに迫ります。前編である今回は、装丁の仕事を始めた経緯から弊社とのかかわり等について語っていただきました。
 

前職の経験を活かし、装丁の世界へ

——単行本、新書、文庫など様々な形式で、またジャンルも文芸、一般、ビジネスと幅広く手がけられている松さんですが、現在、例えば昨年はどのくらいの冊数の装丁をされたのでしょうか?

松 昭教(以下、松) そうですね、200点を超えるくらいになると思います。文庫は表1(カバーのオモテ面)のみ、新書はタイトルの配置と帯(腰巻き)だけということもあって、改めて点数で考えると、自分でもびっくりしますね。

——弊社の単行本の中でも個性的な装丁が印象的な松さんですが、装丁を始められたきっかけを教えていただけますか。

 大学でグラフィックを専攻して、はじめはウェブの世界に入りました。もう15,6年前になりますが、3Dで仮想都市を製作して、ユーザーがその中を歩き回れるという、当時としては画期的なサービスがあったんです。当時パソコンを触っていた方なら名前を言えばわかると思いますが、その製作現場に入って。

 2年ほど経った頃から「自分が本当にやりたいことのは何なのか」を考えるようになって、「本の仕事」をしたいという、以前からあった感情と向き合いました。それで、会社を辞めて、ブックデザイナーとしての道を選びました。

——経験や実績がないとなかなか仕事の依頼が来なかったのでは?

 そうなんですよね。そこで、書籍に自分が経験した3Dを取り入れられないかと考えたんです。その頃、装丁に3D画像が使われているものはほとんどなかった。だから、「こんな画像を作れますよ」というポートフォリオ(作品集)を出版社に持ち込んでプレゼンしました。運良くその中の1社からお仕事をいただくことができました。そういう経緯なので、はじめは装画(主に3D)+デザインでの仕事がいくつか続いたのですが、少しずつデザインメインの仕事をいただけるようになりました。