グーグル、ベスト・バイ、P&G、シスコ・コーポレーションなどの先端企業は、高度なデータ収集技術と分析技術を駆使して、人材から最大の価値を引き出そうとしている。こうした「人材分析学」を活用する企業は、社員の「やる気」の定量化、自社にマッチした社員の特性、離職の可能性の高い社員の分析などの手法により、社員のマネジメントから憶測を排除し、人事関連のさまざまな分野で効果的な管理を実現している。

本稿では人材分析学の主な手法──組織の総合的な健全性を監視する単純な指標の構築から、人材不足や過剰の予測まで──を紹介する。また分析学を使いこなすためには、良質のデータを手に入れ、企業レベルでこれを管理し、分析のリーダーたちをサポートし、現実的な分析目標を選び、幅広い知識を備えたアナリストを雇わなければならない。

データの活用で人材の力を最大限に引き出す

 最先端を行く企業は、社員データの分析に斬新な手法を積極的に採用し、競争優位の強化を図っている。

トーマス H. ダベンポート
Thomas H. Davenport
バブソン大学特別教授、情報学部長。専門は情報技術・経営学。

ジェーン・ハリス
Jeanne Harris
アクセンチュア ハイパフォーマンス・ビジネス研究所のエグゼクティブ・リサーチ・フェロー。

ジェレミー・シャピロ
Jeremy Shapiro
モルガン・スタンレーの人事担当エグゼクティブ・ディレクターで、Ultimate Performance, Wiley, 2007.の共著者でもある。

 グーグル、家電販売大手のベスト・バイ、グローバル食品サービス企業のシスコ・コーポレーションなどでは、最も優秀な社員の生産性を最大化し、やる気を維持し、彼ら彼女らをつなぎとめるにはどうすればいいかを正確に把握し始めている。そして、これら優秀な社員の成功を、他の社員にも再現しつつある。

 優秀な社員のパフォーマンスを上げたければ──彼ら彼女らは、おそらく最大の資産であり最大のコストでもある──勘に頼るより分析学を使うほうが効果的だ。

 カジノ・ホテルを展開するハラーズ・エンタテインメントは、分析学を使って予測利益が最も多い顧客を選び、ターゲットのセグメントに合わせて価格やプロモーションを調整することでよく知られている(注)。

 ハラーズはこの手法を人事にも活用した。データから導かれる洞察で適材適所を実現し、フロントやその他のサービス地点で顧客に対応するスタッフの人数を最適化するモデルをつくったのだ。現在ハラーズは、社員にとって最も重要なことに対して責任を持つために分析学を活用している。幸福で健康な社員が顧客の満足度を高めることを知っているからである。

 たとえば同社は、自社の医療・健康プログラムが、社員のやる気と会社の最終利益に与える影響を計るため、指標を使っている。病気予防のための社内クリニック訪問が増えたことで、過去12カ月間の緊急医療費が数百万ドルも減った。そして同社は、社員のやる気と売上げとの相関関係を把握しているため、この健康プログラムが売上げへもたらした貢献も同様に測定できるのだ。

【注】
"Competing on Analytics," HBR, January 2006.
(邦訳「分析力で勝負する企業」DHBR 2006年4月号)