〈タイド〉のイノベーション
ここで〈タイド〉に話題を戻そう。〈タイド〉の劇的な成長は、P&Gのアプローチの可能性を浮き彫りにするものだ。〈タイド〉ブランドでは、過去10年間にさまざまな新製品が上市され、製品ラインも拡大し、新興国市場では新たな進路を切り開き、また将来有望な新しいビジネスモデルを試してきた。
10年前、アメリカのスーパーマーケットで〈タイド〉を探したとすれば、たいていの場合、ボトルか箱に入ったありきたりの洗剤しか見つからなかっただろう。それがいまや、〈タイド〉の名を冠した製品は数十種類もあり、それぞれ香りや機能が異なる。
たとえば2009年、P&Gは〈タイド・ステイン・リリース〉という洗濯洗剤の添加剤ラインを発表した。その1年以内に、26件の特許を取得し、これら添加剤を新しい洗剤〈タイド・ウィズ・アクティリフト〉に配合した。
〈タイド〉の液体洗濯洗剤としては、10年間で初の大規模な設計変更である。この製品の発売により、アメリカにおける〈タイド〉ブランドの市場シェアは急成長を遂げた。
また、P&Gは新興国市場向けに調合のカスタマイズを行った。インドでエスノグラフィック調査(現場に身を投じて調査対象を観察する手法)を実施したところ、消費者の約80%は衣類を手洗いしていることが判明した。インドの消費者は、肌には比較的優しいが洗浄力に欠ける洗剤か、洗浄力は高いが肌への刺激が強い洗剤かの二者択一を余儀なくされていた。
問題がはっきりしたことを受けて、2009年、あるチームが肌に優しく洗浄力も高い〈タイド・ナチュラルズ〉を考案した。新興国市場では、より多くの便益をより安い価格で提供する必要があることを念頭に置いて、洗浄力は高いが刺激の強い製品よりも、〈タイド・ナチュラルズ〉の価格を30%低く設定した。
これによって、インドの消費者の70%が〈タイド〉ブランドを利用できるようになり、インドにおける〈タイド〉のシェアは大幅に上昇した。
型破りの新製品〈スワッシュ〉
それ以上に斬新だったのが、〈タイド〉ブランドを洗濯機の外で使えるようにした〈スワッシュ〉である。〈スワッシュ〉ラインには、明らかに破壊的な特徴がある。衣料用洗剤ほどしっかりと汚れが落ちるわけでもなく、プロがアイロンしたようにきれいにシワが取れるわけでもない。しかし、手早く簡単に利用できるので、次に洗濯するまでの急場しのぎには十分といえる。
〈スワッシュ〉の商用化までの道のりは異例だった。オハイオ州シンシナティのP&G本社の近くにある店で〈スワッシュ〉が最初に販売された時には、別のブランドが冠され、〈タイド〉との関連性ははっきりと示されなかった。
その後、P&Gはオハイオ州立大学に〈スワッシュ〉のパイロット・ショップを開いた。どちらのテストも、消費者がどのように同製品を購入し使用するかを理解するのに役立った。
P&Gは次に、アマゾン・ドットコムなどの一部のオンライン・チャネル限定で、〈スワッシュ〉の販売を開始した。
2011年初めに〈スワッシュ〉のプロモーションは縮小されたが、この活動による学習成果は、衣料用リフレッシュ剤分野の他の破壊的イノベーションのアイデアに取り組むうえで参考になるだろう。