焦点を絞り込みポートフォリオで管理する

 2008年頃には、P&Gのニュー・グロース・ファクトリーの実用的なプロトタイプは完成していたが、同社のイノベーション・ポートフォリオは小規模なプロジェクトの急増によって圧迫されていた。

 そこでラフリーは、当時COOだったマクドナルドとCTO(最高技術責任者)のブラウン(本稿共著者)に対して、ニュー・グロース・ファクトリーを少数の大規模イニシアティブに絞り込み、イノベーションを激増させるように命じた。これを受けて、マクドナルドとブラウンのチームは3つの重要な改善策を推進していった。

転換的持続的イノベーションの推進

 P&Gは、第一に、既存の製品ラインを強化することを目的としたイノベーションと、新しい製品ラインやビジネスモデルを開発する取り組みとを完全に切り離すのではなく、その中間のカテゴリーである「転換的持続的(transformational-sustaining)イノベーション」をいっそう重視することにした。これは、既存の製品カテゴリーに新しい重要な便益をもたらすイノベーションのことである。

 オーラル・ケアの〈クレスト〉を例に取ろう。〈クレスト〉は市場シェアで長らくトップだったが、1990年代後半になって〈コルゲート〉にその座を奪われた。

 王座の奪還を期して、P&Gは2000年、〈クレスト・ホワイト・ストリップス〉を発売した。この製品は、手頃な価格で、手軽に家庭で歯のホワイトニングを可能にする、破壊的イノベーションとなった。

 2006年に、虫歯、歯垢、歯石、着色、歯肉炎、口臭の予防という6つの効能を1本のチューブに詰め込んだ歯磨き粉〈クレスト・プロヘルス〉を上市した。また2010年には、二時間で歯のホワイトニングができる製品などを含む高機能オーラル・ケア製品ライン〈クレスト・3Dホワイト〉を発売した。

 こうした努力のかいもあり、〈クレスト〉は多くの市場でナンバーワン・ブランドに返り咲いた。〈クレスト・プロヘルス〉と〈クレスト・3Dホワイト〉はいずれも、転換的持続的イノベーションであり、既存の消費者に訴求すると同時に、新規顧客を引きつける製品となった。

 この種のイノベーションは、新市場を生み出す破壊的イノベーションに共通する、重要な特徴を備えている。それは、「不確実性が高い」ということだ。ニュー・グロース・ファクトリーは、まさにその不確実性を管理することを特に意図して設計されている。

〈クレスト・3Dホワイト〉
1990年代後半に〈コルゲート〉に王座を奪われた〈クレスト〉は、家庭で手軽に安価で歯のホワイトニングができる製品など、いくつかの革新的なオーラル・ケア製品を発売したことにより、多くの市場でトップの座を奪還した。