価値算定の根拠が示されていない算定書に
どれだけの信憑性があるか
すでに報じられているように、この事業計画は足下の売上が数億円、営業利益が数千万円の医療用産業廃棄物の処理業者である被買収企業が、5年後には売上高200億円弱、営業利益70億円に急成長するという荒唐無稽といっても過言ではないものであった。(実際には、10月28日付の同社プレスリリースによると、買収から4年を経て売上高は当初計画の10分の1の20億円弱の見込み。)
このような事業計画を、仮に適切だと企業側が主張したとしても、果して算定人は「Disclaimer」で「自分は単にデータを基に機械的に計算しただけ」として、責を免れることが本当にできるのであろうか。また、このように依頼主の企業の提供する事業計画を鵜呑みにして機械的に作成された算定書に基づく数値が、M&A取引のプレスリリースに記述されたとして、果して一般投資家にM&Aの取引価格に関して有用な情報が開示されたと言えるのだろうか。
日本における算定書開示の最大の問題点は、仮にそのサマリーがEDINETで公開されるMBO取引の事例においても、価値算定の前提とされた業績予測がほとんど開示されないことである。
たとえば、現在一部の少数株主が価格を巡って訴訟を行っている本年2月に実施されたカルチュア・コンビニエンス・クラブに対するMBOにおいて、GCAアドバイザリーが作成した株式価値算定書を見てみよう。前述のオリンパスによるアルティス社のケースと同じように、算定者は、「CCCの収益予想に含まれた財務予測等は、(中略)その正確性、完全性、妥当性および実現可能性等について独自の検証は行って(いない)」と書かれている一方で、その財務予測の具体的数値(売上高、営業利益等の予測)については、何らの記述もない。
企業価値評価においては、将来の財務予測は最も重要な変数である。この財務予測を悪意を持って操作すれば、どのような過大な(過小な)企業価値も算定できる。逆にいえば、財務予測の妥当性があってこそ、価値評価の妥当性が担保される。現在開示されている算定書は、この肝心な財務予測が開示されていない。要は、算定結果としての株式価値は書かれているが、どのようなプロセスでそこに至ったかについては一切わからないブラックボックスなのである。