「顧客バリュー・プロポジション」のほとんどが、顧客ニーズをなおざりにしており、およそソリューションとはいえない。実際、その提案方法だけを見ても、すべての長所を列挙したり、競合製品よりも優れた点だけをアピールしたりと、まったく売り手本位である。しかし、ソノコ、インターグラフ、ロックウェル・オートメーション、GEインフラストラクチャー、クエーカー・ケミカルなどの企業では、顧客ニーズを徹底的に調べ上げ、顧客の事業価値に貢献するようなバリュー・プロポジションを開発し、ウィン・ウィンを実現させている。本稿では、バリュー・プロポジションの失敗例と成功例を紹介しながら、ソリューション営業の本質について再考する。

法人営業は売り手本位で顧客不在

「顧客バリュー・プロポジション」(提供価値)は最近、法人営業の世界で頻繁に使われる言葉の1つである。ところが、その取り組みについて調べてみると、バリュー・プロポジションの構成要素やその説得力を高める方法には、これといった指針がないことがわかる。

ジェームズ C. アンダーソン
James C. Anderson
イリノイ州エバンストンのノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントのウィリアム L.フォード寄付講座教授。専門はマーケティングと小売戦略。ペンシルバニア州立大学ユニバーシティパークにあるインスティテュート・フォー・ザ・スタディ・オブ・ビジネス・マーケッツ(ISBM)のアーウィン・グロス寄付研究部門研究員。オランダのトウェンテ大学のスクール・オブ・ビジネス・パブリック・アドミニストレーション・テクノロジー客員研究教授。

ジェームズ A. ナルス
James A. Narus
ノースカロライナ州シャーロットにあるウェイクフォレスト大学のバブコック経営大学院の教授。B2Bマーケティングが専門。

ワウテル・ファン・ロッスム
Wouter van Rossum
トウェンテ大学のスクール・オブ・ビジネス・パブリック・アドミニストレーション・テクノロジー教授。民間経営および戦略的経営専門。

 それどころか、コスト削減などのメリットを主張するのに何の根拠も示さない企業も多い。しかし、具体的な説明やデータがなければ、それが本当だったとしても、大風呂敷だと見なされかねない。顧客企業の購買担当者は、コスト削減の責任を負っており、これは年々重くなる一方である。彼ら彼女らは何の証拠もないまま、サプライヤーの言葉をうのみしたりしない。

 あるICチップ・メーカーの例を紹介しよう。同社は、電子機器メーカーが次世代製品向けに500万個を購入してくれないものかと考えていた。しかし、ある電子機器メーカーとの話し合いのなかで、単位価格が10セント安いサプライヤーがほかにあることがわかった。

 この電子機器メーカーは、各サプライヤーの営業担当者に「製品の売り」について尋ねた。その時、このICチップ・メーカーの営業担当者がアピールしたのは、自分が個人的に提供するサービスである。

 しかし、彼はこの時、顧客企業がすでにバリュー・モデルを導入していることを知らなかった。実はこのICチップ・メーカーの製品は、価格では競合製品に10セント劣っていたものの、価値では15.9セント優れていたのである。次世代製品の開発プロジェクトを指揮するエンジニアは、価格が高いとはいえ、この会社の製品を選ぶように購買マネジャーに進言した。