おカネがないほうがいい結果を生む

リソース不足がイノベーションを生み出す例を挙げよう。

メキシコでは、公的な保険がきく医療機関が不足しており、ほとんどの人が自費で民間の医療機関にかかる。

だが、自費診療は非常に高額だ。

それがペドロ・イリゴージェンのひらめきにつながった。

イリゴージェンは医療費を下げるためのアイデアを考えるうち、メキシコシティでコールセンターを運営することを思いついた。

イリゴージェンは既存のコールセンターに医療の訓練を受けたスタッフを配属し、世界中の先進的な病院で使われているのと同じ診断システムを備え付けた。

彼が発明したものは何もない。

既存のサービスを使って、新しい形で組み合わせただけだ。

イリゴージェンは月額5ドルで、誰でも必要な時にこの医療コールセンターに電話をかけられるサービスを提供することにした。

このちょっとしたイノベーションがメキシコの医療に革命を起こした。

今、医療にかかわる問題の62%は、電話で解決されている。

深刻な問題の場合には、スタッフが専門家を紹介する。

患者は助かるし、会社は紹介料を受け取る。

紹介料の一部は患者への割引となり、患者も得をする。

患者にとっても、イリゴージェンの会社にとっても一石二鳥だ。

会社名は〈メディカル・ホーム〉という。

医療業界でもずっと前から同じことができたはずだが、異なる経歴を持つアウトサイダーだからこそ限られたリソースで解決策を生み出すことができた。

これは、おカネがないほうがいい結果が生まれるという象徴的な事例だ。

イリゴージェンは研究開発にかけるおカネも、医療ビジネスの経験もなかった。

だからこそ非凡な考えにたどりつき、全く新しい形でユーザーに価値を提供することができた。